やさしく夜を包むように
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「まさか――、技が倍になって返ってくるのか!?」
「そんな……! プレッザ・ペタロ!」
「プレッザ・ペタロ返し!」


 フェアリモンが反撃しに向かったけれど、それも同じように返されてしまった。自分の技に苦しめられているなんて――。
 アルダモンが同じようにしてセフィロトモンに向かう。けれど、その攻撃も通用せず。更にセフィロトモンは、自分以外の仲間の攻撃を受けてみろ! と言って、必殺技を放つ。


「ムダだ、どう足掻いてもお前たちは俺には――、いや、自分たちには勝てないのだ!」
「……本当にそうだと思うのかい。――天浮橋!」


 イナバモンが手をかざすと、虹のような光線が飛び出してセフィロトモンを照射する。これは吸収されることなくセフィロトモンに当たる。


「……そうか。お前はハクジャモンのスピリットを浄化して生まれたのだったな」
「そうさ。つまり私たちにはまだ手立てがある、ってことだよ、セフィロトモン」


 シキモンとはまた違った口調のイナバモンが、静かに喋る。そうだ、わたしは早くセフィロトモンを倒して――そして輝二くんたちの元へ行かなくてはならない。


「あたしたちの技はこれだけじゃない!」


 フェアリモンたちも皆スライド進化して、そして技を喰らわせていこうとした、けれど。
 セフィロトモンはその技すらも取り込んでいてしまっていた。


「そんな……」
「単独で攻撃してもやられるだけだ、一気に仕掛けるぞ!」
「おう!」


 そしてアルダモンが先頭になり、みんなも、イナバモンも必殺技を放っていく。でも、セフィロトモンは自分の身体を丸め込んで技を取り込んでしまう。それどころか、イナバモンたちは、今放った技と同じ技に跳ね返される。今度は、天浮橋も通用しなかった。
 ――まったく、歯が立たないというんだろうか。


「それで終わりか?」
「これじゃどんな攻撃をしてもだめだよ! ……かなわないよ、こいつには」
「こんな敵、はじめて」
「駄目だ、勝てっこない!」


 しかし、セフィロトモンは変わらず高笑いをしている。わたしはそれが苛立って、再び虹を放とうとした。すると、そんなイナバモンをボルグモンが抑える。


「……逃げるんだ」
「え?」


 逃げる。
 その言葉で、わたしはデジタルワールドに来たばかりのころを思い出す。
 そうだ。はじめのほうは、わたしも純平さんも、戦いを避けようとしていた。先に敵に立ち向かったのは、純平さんだった。あの時のわたしは、戦おうとしていた純平さんや拓也くんたちの行動が信じられなかった。


「あいつには絶対勝ち目はない。逃げるが勝ち、って言葉もあるだろ」
「だ、だが……」


 確かにこのままで勝てるかは怪しい。けれど、今までのみんなは、わたしが勝ち目がないと思い込んでいても、立ち向かって戦ってきた。
 わたしはセフィロトモン様の地でスピリットを得るまで、ずっとそんなみんなの背中を見てきた。
 だからこそ。本当に逃げていいのか悩んでしまう。もう逃げたくないと思って、わたしはあの階段を下って、デジタルワールドに来る“選択”をした。


「逃げよう」
「え?」
「今ここで倒れてどうするんだ! 生き延びることのほうが、大切だ」
「……そうね」


 みんなはスライド進化を解く。だからわたしも、イナバモンからシキモンへと姿を変えた。逃げることも正解なんだろうか。
 イナバモンたちの周りを、変形したセフィロトモンが取り囲む。――逃げることすらできないの?


「……皆! オレに続け!」

 するとアルダモンは飛んで、セフィロトモンを超える。超えた瞬間に、セフィロトモンが技を放ったが当たることはなかった。
 ブリッツモンたちもその後に続いたから、シキモンは跳躍してセフィロトモンを超えた。そして、全速力で走り続ける。後ろでは団子状のセフィロトモンが追いかけてきている。
 それから谷底に下って、薄暗い洞窟に入った。


「まだ追いかけきている!?」
「無駄だ!」


 それから走り続けた。けれど着いた先は行き止まりだった。追いつかれてしまった。
 セフィロトモンは不気味に高笑いを繰り返していたけれど、急にセフィロトモンの光が消える。


「どこに行ったの……!?」
「……、ウワアア!」


 暗くなったと思えば、急にセフィロトモンから技が放たれた。暗いから、どこから技がやってくるのか分からない。
 洞窟のあちこちでは、セフィロトモンが浮かんでは消える。暗い闇のなかで、イナバモンたちは立ちすくんでいた。
 暗い、闇。夜のような闇。

「闇だ。闇は恐怖だ、闇は孤独だ……」

 わたしはダスクモンを――輝二くんに似た“彼”を思い出す。彼はずっと闇を抱えているままなんだろうか。もしそうならば、輝二くんの光で彼を照らし出してほしいと思った。

「……そして、闇はお前たちを支配する」

 真っ暗闇に、セフィロトモンの声が不気味に響き渡る。
 少し前までは、闇がこわかった。けれど、再びこの世界に来てからは――完全にこわいとは思えなかった。
 もちろん、少しくらいなら不安でこわい、とは思ってしまう。けれど、それ以上に色は光と闇がなければ輝くことはできないから。世界が出ずるのと同じ時に発生したのは、光と闇、そして色だ。
 光があるから闇があって、闇があるから光がある。そしてその二つを内包した、色。きっと、前にハクジャモンが言っていた“善悪の彼岸”とは、こういうことなんだろう。
 色のスピリットを受け継いだわたしや望ちゃんには、光と闇の二つが、心にはある。
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