やさしく夜を包むように
[1/3]
逃走! 変幻自在セフィロトモン
 メルキューレモンをロードされたセフィロトモンは、姿を消してしまった。 光っていた球体は今はどれも色がなく、姿をくらましたのはまるで闇にそのまま溶けていったかのようだった。
 わたしはあの男の子のことを言おうか迷っていたけれど、なかなか話を切り出せずにいた。今まで敵として戦ったダスクモンが、輝二くんそっくりの男の子だったなんて――。なんだか、考えるだけで混乱してしまう。


「ちちははうえちゃん!」
「おお、わしのことを父さんとも母さんとも思ってくれているのか」
「おなかがすきましたです」


 パタモンはボコモンの頭の上に乗っていた。
 お腹が空いた、と言われても食べるものは何もなかった。ごめん、わたしも持ってないや。
 皆はパタモンを中心にして話していたけれど、拓也くんは一人デジヴァイスを見ていた。思うのは、当然輝二くんのことだろう。わたしは拓也くんの傍に行って、同じようにデジヴァイスを取り出した。


「輝二……」
「輝二くん、」


 デジヴァイスに向かって、彼の名前を唱える。しかし画面は砂嵐のままで、何も映さない。
 輝二くん、どこにいるの? どこであの子と戦っているの。あの子はケルビモンに操られ、今ごろは輝二くんと戦っている。
 わたしは今すぐにでも輝二くんの元へ駆け出したかった。けれど、それは出来ない。――鋼の闘士を完全に倒すまでは、行くべきではない。


「輝二を、探しに行こう」
「……でも、セフィロトモンがまだどこかにいるよ!」

 だから、そう思ったから、わたしは拓也くんの意見に反論した。もちろん輝二くんを探すのも大事だけれど、望ちゃんの仇を打つべきだと思ったのだ。
 ――再びこの世界に来ることを選んだのは、誰でもない。わたし、比沢想の意志だった。
 拓也くんは少し驚いたようにわたしを見たけれど、次の声で意識は違う所に向けられた。

「ねえ、ちょっと見て、あれ……!」


 それは泉ちゃんの声だった。消えたかのように思えたセフィロトモンが、再び視界に現れた。しかもそれは、球体に全ての色を灯した状態でだった。
 セフィロトモンの球体が、鼓動のように不気味にうごめく。そして、それが止んだかと思うと急に動きが止まり、セフィロトモンが白く閃光した。


「フッフフ! 伝説の六闘士たちよ。お前たちには礼を言わねばならないな。俺が今まで以上の力を得たのはお前たちのお陰だ!」
「えっ!?」
「ミョルニル・サンダー!」


 球体がうごめき、そして稲妻が放たれる。それは、他でもないブリッツモンの技だった。――どういうことなんだ。
 わたしたちが技に驚いていると、セフィロトモンは間髪入れずにフェアリモンの技“ブレッザ・ペタロ”を放つ。風を何とか避けることはできたけれど、今度はまた次の攻撃が迫ってきていた。


「蠱虹蛇!」


 ハクジャモンの、技だ。
 何とか退いて攻撃を受けることはなかったけれど、その代わりに、放ったエネルギー弾によって大地はえぐれてしまった。


「そんな……、ハクジャモンまで!」
「落ち着け、想! こっちも進化だ!」
「……っ! うん!」

 そうだ、こんなところでショックを受けている場合じゃない。拓也くんは頷いたわたしを見てから、デジヴァイスを手にかざした。

「――ダブルスピリット・エボリューション!」


 そして、アルダモンへと進化した。純平さんはパタモンに自分たちもダブルスピリットエボリューションが出来ないのかと尋ねていた。けれど、たぶんそれは出来ないだろう。――きっと、あれは奇跡の進化だった。
 純平はがっくりして、パタモンはしょんぼりしていた。けれど、大丈夫だよ。


「大丈夫よ!」
「パタモンに、かっこいいとこ見せなきゃねっ!」
「スピリット・エボリューション!」


 そして、わたしたちは進化した。わたし以外の三人は、人型に。わたしは、イナバモンになった。
 わたしたちが進化しても全然困った様子ではなく、セフィロトモンはチャックモンの技を使って攻撃していく。もしかして、すべての技を記憶しているのか――、そう思うと怖くなった。


「俺はそれぞれのエリアにお前たちを誘い込んだ。そして戦いを通して――、お前たちの技のデータを記録した!」


 だから、技も使えた?
 となると、シキモンの技もコピーされているに違いない。わたしも、セフィロトモンの体内でシキモンとなって技を放った。そして、ハクジャモンをロードした。


「お前たちは自分で自分の首を絞めたのだ。お前たちのスピリットをもらい、そして俺がデジタルワールドの支配者となるのだ!」
「そんなこと、させる訳がないだろうっ!」


 わたしは、イナバモンはセフィロトモンを睨み上げた。――そうだ、イナバモンは再びこの世界にやって来て、初めて進化することが出来たデジモンだ。ならば、当然セフィロトモンが知りようのない技を使うことが出来る。


「そうだ、いくらコピー出来ようが、本家の技のほうがすごいに決まってるだろ!」


 ブリッツモンが飛んで、セフィロトモンに向かう。セフィロトモンは球体を動かして、ブリッツモンの“ミョルニル・サンダー”を吸収して、そして全く同じ技をブリッツモンに返した。
 ――わたしは、セラフィモン様が亡くなったときのことを思い出した。“ジェネラスミラー”。それはメルキューレモンが持つ必殺技で、鏡に映った攻撃をそのまま反射する技だった。あの時と近いことが、今再び起こっている――。

prevnext


NOVEL TOP

×