わたしはよわい
このあたりは砂漠地帯で、トレイルモンとかいう電車のデジモンが線路を通るたびにひどい砂嵐が吹いたり、止んだりしている。しばらく歩いて、日本語で株式会社風工場、というところにたどりついた。 工場の煙突からは風が勢いよく吹いている。[2/3] 「株式会社風工場……だって」 「風のファクトリーね」 「面白そう!」 この世界では風は自然のものじゃないのかとかいう疑問。ヘンなの! 物理学とかどうなるって話だよねぇ……。 「あっデジモンだ!」 濃い灰色の機械でできたクワガタみたいなデジモンが、列をつくって歩いていた。従業員なのかなあ。 「ふーん。……あっ」 先頭にいたデジモンがつまづくと、ドミノ倒しでみんなコケた。転んだ衝撃か、は分からないけどデジモンからは電流が。 「あれだけ大勢のデジモンがいると、きっと食べ物もあるじゃろ!」 「よーし、それじゃ早速のりこもーぜ!」 「ちょ、ちょっと待てよ!」 ご飯に期待して足をまた前に出すと純平さんの制止。 「勝手に入って、大丈夫なのか? いきなり襲われたりしないだろうな……?」 「なぁに、ビビッてんだ? ここまで来て引き返せるかよっ!」 拓也君はすたすた走っていった。純平さんの言うことも正しいとは思う。純平さんは一瞬、立ち止まって考えて、「……想ちゃんも来いよ!」と言って工場のなかへ行った。 なので、わたしはみんなのあとを仕方なく追った。正直べつにおなかはすいていないしどっちかと言うと疲れたから寝たい。 門をくぐった瞬間、警報みたいな音とともに上からミノムシみたいなものが降ってきた。気持ち悪い! 虫はきらい。 「ケイコクー、ケイコクー、ミノモンからのケイコクミノ!」 「あ、ミノモンだ」 「幼虫型デジモンじゃい!」 解説はどうでもいいよ。気持ち悪いよ! 「ケイコク、風のファクトリーへの部外者の立ち入りは禁止されてるミノ! ケイコクに従わない場合、」 一匹のミノモンがそう言うと、横からたくさんのミノモンが降ってきて攻撃を開始するミノ!と言った。ど、どうしようこんなヘンなのに攻撃されたらひとたまりもない。 「あの、あたしたち工場見学に来たんですけど」 「あほか! そんな言い訳通用するわけ……」 「ならおっけーミノ!」 ちょ、そんなんでいいの。 というわけで。泉ちゃんの言葉でなんとかわたしたちは工場に入ることができた。 工場ではコクワモンというデジモンと、ゴブリモンというデジモンが協力して作業をしていた。ぜんぶ、手作業。デジタルなモンスターなんだからもっとメカちっくなことすればいいのになあ。 ミノモンに案内されるがまま、わたしたちは今までいちばん大きなエリアにきた。吹き抜けで、二階からは一階の作業の様子が見られる。 「ここは、工場の中枢部ミノ。ここで最新式の超ハイテクマシンを製造してるミノ!」 「わぁ、すごい!」 「おっきいね、って、あれ、扇風機?」 ゴンドラで、相当古い型の扇風機が運ばれている。どうやらあれが完成品みたい。確かに、扇風機は風を起こすけども! 「あれのどこがハイテクなんだよ!」 「それはボクにも分からないミノ!」 いい加減だし色々理不尽。 見学コースはこれにて終わりということだった。わたしたちは真っ先に食堂に向かったけど、それはそこにあったのは乾電池オンリー。そりゃ、あのコクワモンは電気を食べれるからいいけどねえ。 わたしたちは、結局たいした収穫を得られぬまま工場を後にすることにした。ていうかわたし的には早く寝たいんだけども。 「何なんだよ、風のファクトリーって!」 「結局何も食べられなかった……」 「ちぇっ」 拓也君は乾電池を蹴り上げる。それが、コツン。遠くに飛んだ。わたしたちはその方向へ進む。 「コクワモンたちの居住区よ」 「工場とはエライ違いじゃ!」 確かに寂れている。同じような小さな家が、何軒も何軒も並んでいるだけ。その殺風景な景色をただ眺めていると、小さなコクワモンの子がにこにこの笑顔で駆け寄ってきて、それから、長老みたいな人たちのところにわたしたちは招かれることになった。 「と、いうわけで。わしらはやつらにコキ使われてるんじゃ」 「え?」 「意味が分かりません!」 来て早々長老コクワモンがそんなことを言うので、意味不明に思った。するとまともそうなコクワモンが説明をしはじめた。 コクワモンたちは、元々静かに平和に暮らしていた。それなのに、ある日突然ゴブリモンたちが襲い掛かってきた。住処であった森も、あっというまに燃やされて、残ったのは黒く焦げた大地のみになった。 そんなコクワモンたちの事件と同時期に風のファクトリーでは力が弱くなってきていた。困った工場長はなんとかするためこのコクワモンたちを利用しはじめた。――らしい。 「ふぅん、そうなの……」 「さっき見学したときはそうは見えなかったけど……」 「食堂もキレイだったし。――食べられなかったけど」 「それに、あんな近代的な工場でこき使われてるっていっても」 「わざわざ部外者に本当の姿見せる必要がありますか?」 「それに、やつらの狙いはそれだけじゃないんです、我々の電気なのです!」 えっ。話を聞くとコクワモンは臆病なデジモンで、驚くと100万ボルトの電流を放ってしまう。工場長は、コクワモンの電気を得るためにずっとコクワモンをおどかしつづけている、らしい。ひどいな。よくみんなうつ病とかならないなー。もうなってるかな……。 「食事の電池も、元は我々が流した電気。低賃金、重労働。休みなし、ボーナスなし!」 うわあ。ただでさえ不景気なのに! もっといい仕事見つかるでしょ! 「でもなんで言わないんだ?」 「そうだ! みんなで逃げちゃえばいーじゃん!」 「おい! こういうときは悪いやつをやっつける、だろーが!」 「なーんですぐそうなるんだ!? わざわざ危険なめに合うことはないだろ」 拓也君と純平さんはお互い、睨みあった。わたしだったら絶対逃げるなあ、うん。怖いし。 「さっきも言いましたが、我々は争いを好みませんし、逃げようにも警備が厳しくて」 「でも、このまま黙って言いなりで、それでいいのかよ! オレたちが手を貸す。だから皆で一緒に戦うんだよ!」 拓也君――。危なくないの。 「ちょっと待てよ! 何でお前はいつも――」 「あたし、いいよ!」 「ボクも!」 ボコモン、ネーモンもそのあとに続き。わたしは黙ったままだった。 「やろう!」 なんで、そうなるんだ。 NOVEL TOP |