大切なあの人を守るために
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 わたしは再びこの世界にやってきた。選んだのは、わたし。
 紅い目をしたダスクモンを思い出すだけで、心がざわつく。きっと、ダスクモンは望ちゃんと同じようにケルビモンに操られた人間の子どもだ。そして、それはあの時階段から落下した、輝二くんそっくりな男の子に違いない。
 突然、デジヴァイスが電子音を放つ。何かと思い画面を見ると、そこには風のスピリットのマークがあった。


『想! ……よかった! 通じた!』
「い、泉ちゃん!?」

 そして聞こえてきたのは、泉ちゃんの声。どうやら、デジヴァイスで連絡が取れるみたいだった。今まで気づかなかったのが不思議な機能だ。背後では、純平さんと友樹くんの声が聞こえる。みんな無事みたいだった。


『想、今どこにいるの? あたしたちがいた場所は、セフィロトモンの体内だったのよ!』
「うん、望ちゃ……ハクジャモンから、聞いたよ。今、急いでそっちに行くから待ってて!」


 泉ちゃんたちは、セフィロトモンから脱出できたみたいだった。輝二くんと、拓也くんは未だにセフィロトモンの中にいる。そしてダスクモンは、今輝二くんと戦っているらしい。――行かなくちゃ。
 イナバモンとなっていたわたしは、闇の大陸を駆けた。以前よりか、跳ぶ足に力がこもった。


*

 走って、皆の姿とセフィロトモンが見えたところでイナバモンはセフィロトモンに向かった。だけど、再びセフィロトモンに入れることはなく、弾き飛ばされた。おまけに、進化まで解けてしまう。
 見たこともないデジモンからいきなりわたしが現れたからか、皆は少し驚いた表情だった。


「あ〜、想だ〜」
「想!? よかった、無事だったのね!」
「想はん! あんさん、今の姿は……」
「もしかして、新しい色の闘士!?」
「とにかく、想が無事で良かったよ!」


 皆がわたしに声を掛けてくれるだけで、わたしは胸がいっぱいになる。


「み、皆、会いたかった……!」
「わっ、想、泣くなって!」
「だ、だって……」
「想、よしよし」


 皆に会ったら気が抜けてしまって、わたしは泣いた。純平さんがおろおろして、泉ちゃんがわたしを抱きしめてくれて、友樹くんが笑って! と言ってくれる。――そうだ、わたしには仲間がいるんだ。


 イナバモンのことも説明して、わたしは息を呑む。ビーストスピリットがハクジャモンからイナバモンに変化したということは、当然わたしがハクジャモンを、望ちゃんを倒したから。
 わたしは、望ちゃんのことから現実世界に帰ったことすべてを、話したかった。けれど、事情を説明している暇はなさそうだった。球体には、戦っているヴォルフモンとダスクモンの姿が映る。その横の球体では、アグニモンが戦っている。
 わたしは、ここで祈ることしか出来ない。なにも、できない。どうしてわたしはあそこに行けないの――。色の闘士、だというのに、肝心の光と闇の争いで、わたしは何も出来ないままなのか。


「暴れとる」
「戦っているんだから、暴れるのは当たり前じゃないの」
「セラフィモンのたまごが、暴れとるんじゃ!」
「え!?」


 え、と驚いて、わたしはボコモンに駆け寄った。確かに、お腹のたまごが動いていた。
 わたしは命と引き換えにたまごをわたしたちに渡したソーサリモンさんを思い出した。このたまごは、世界の、ソーサリモンさんの希望の光だったのだ。もうすぐ生まれるというのなら、まだ希望がある。――それなら、ヴォルフモンが、輝二くんが負けるはずがない。


「輝二くん、頑張って!」


 たまごが動いて騒いでいる中、わたしは一人輝二くんのいる球体を見ていた。アグニモンはもう敵を倒したようだった。
 進化が解けた輝二くんが、見える。紅い刃を振ろうとする、ダスクモンの姿が見える。このままでは、いけない。けれど、きっと輝二くんなら。


『このまま……、負けるわけには、行かないんだ!』


 その時だった。聞こえるはずのない輝二くんの叫びが、聞こえた。
 輝二くんは強い人だから、きっと勝てる。わたしも、信じている。だから、わたしも輝二くんの名を呼ぶ。

「輝二くんっ!」

 わたしは、祈るようにデジヴァイスを握りしめていた。

「あ……」

 すると、デジヴァイスから光が飛び出す。画面に現れたのは、はじめは世のスピリット。その次は、わたしの、色のスピリットのマークだった。
 それとほぼ同じタイミングで、たまごも光を放って浮き上がる。わたしのデジヴァイスと、セラフィモン様のたまごの二つが、輝二くんへ光を届ける。想いが、通じたんだろうか。


「赤ちゃん……パワー!」
「……二つのスピリットが、力をくれたんだ」
「輝二が、新たなデジモンに進化した!」
「……あれは、ベオウルフモンじゃ!」


 そういえば、前にデュークモンさんはヤタガラモンは人と獣、二つの力が合わさった闘士なのだと言っていた。色のスピリットは、きっとこれが光であり、闇である力だからだ。だから、二つのスピリットが力をくれた。
 世のスピリットも、色の獣のスピリットも、どちらも望ちゃんが持っていたものだ。それが今、輝二くんの新たな力となる。それが不思議でうれしくて、わたしは泣きそうだった。

 輝二くん、がんばって。ダスクモンを、浄化して、輝二くんに似たあの子を元に戻して。光と闇、二つの力がぶつかる。
 そして力は相殺しきれずに爆発し、二人とも球体から弾き飛ばされる。二人は、彼方の方へ飛んでいき見えなくなってしまった。


「輝二くん!!」


 後を追いたかった。足を踏み出そうとしたところで、わたしは思い直す。――まだ、セフィロトモンを倒せていないから、行くわけにはいかない。
 望ちゃんはずっとケルビモンの手の内にありながら、セラフィモン様のデータを奪い返して浄化しようとしていた。ならば、わたしも望ちゃんのその意志を尊重するべきだ。
 だからわたしは、後を追わなかった。――すべてが終わったら、輝二くんに色んなことを話すんだ。

130812

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