咎を抱えて色褪せる
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「……っ、想。私を討って」

 闇に包まれたハクジャモンから、声が聞こえる。

「そんな、どうして……」

 どくん、どくん。
 闇が波打つ。その度に、目の前の色の獣は苦しそうにうめく。
 他に手はないんだろうか。倒すしか、ないんだろうか。


『バカな。攻撃すれば、お前が死ぬだけだ……っ!』
「そんなことで……死ぬような、私じゃない、わっ! ここにいる私は実体じゃないっ、だから、平気だもの! 想、スピリットをロードして!」
「で、できないよ……っ」
「……そうじゃないと、また……っああっ」


 ハクジャモンは苦しそうにもがいている。
 せっかく望ちゃんに逢えたのに、どうしてうまくいかないんだろう。
 皆を探して、望ちゃんと一緒にいきたいと思っていたのに。
 シキモンはハクジャモンを見つめ、そして腕を構える。


「――色即是空」
『何……!? バカなことを……!』


 そしてわたしは望ちゃんを討った。灰色のもやに包まれたかと思うと、ハクジャモンの進化が解けて、本来の望ちゃんが現れる。久しぶりに見た彼女は、髪が長くなっていて美しかった。


「世情に流されし魂よ、色に帰依するが良い。――デジコード・スキャン」


 いつもの口上を言い終えて、デジコードをスキャンする。身体まるごとにスピリットを埋めこまれていた望ちゃんをスキャンするということは即ち、望ちゃんが消えてしまうことを意味していた。


「望ちゃん!」

 わたしは必死に彼女の名前を叫び、身体を掴もうとする。だけれど、呼べば呼ぶほど望ちゃんの身体は透けて消えていく。


「想。……私は、先に現実世界で待っているから。帰ってきたら、一緒に夕と」
「望ちゃあああん!!」


 言葉の先は、聞き取れなかった。望ちゃんが、完全に消えてしまったからだ。
 わたしは望ちゃんを討ってしまった。大切な人を、討ってしまった。


『……ふん。お前は、友を倒したのだ。作戦は狂ってしまったが、これはこれで良い』
「……あ、ぁ……」


 手が、身体が、奥歯が震える。こわい。わたしの心象を現すかのように、大地は震えている。メルキューレモンが消えていく。
 そして、――それから、目の前が暗転する。真っ暗闇になって、わたしは紅い目の輝二くん似の男の子を思い出す。
 暗闇に包まれたわたしの目の前には気付けばトレイルモンの姿があった。見たこともない、暗い色のトレイルモンだった。
 これは、きっとわたしをいざなっている。どうしてこんなことになってしまったのだろう。わたしが、三年前に逃げていなかったら。わたしが、デジタルワールドに来ていなければ。
 ――わたしは抗えず、トレイルモンに乗り込んだ。
 どう望んでも、変わらない事実。わたしは、友達を討ってしまった。


130812

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