走り続けた世界
[3/4] 川を飛び超え、地を蹴り、走り続けた。しばらく走っていくうちに建物を見つけ、そこでブーメランは戻っていく。 建物の屋上には、ヴォルフモンがいた。――メルキューレモンと、ラーナモンに追い詰められた状態で。 屋上からすぐ視点を変えれば、そこには巨大な石に手足を拘束された泉ちゃん、純平さん、友樹くんの姿があった。泉ちゃんたちのデジヴァイスが結界によって閉じ込められている。 ヴォルフモン一人で、敵を相手していたのか――! ヤタガラモンを追うんじゃなかった。わたしがずっと輝二くんや皆の傍にいればよかった。 「シキモン! 行くぞ!」 「が、合点!」 って、暗いことなんて考えている場合じゃない! 「急げー!」 「それもそうだが……作戦も必要だ」 アグニモンはちゃんと考えていた。アグニモンとシキモンが飛び出したところで、進化できない泉ちゃんたちは敵に捕らえられてしまう。――となると、三人を助けてデジヴァイスを取るのが先だった。 「そりゃ、そうじゃが……ウワッ!」 「ヴォルフモン!!」 ヴォルフモンがカルマーラモンの触手に捕らえられ、床に叩きつけられた。ヴォルフモンが、落ちていく。――急いで、皆を助けに行かないと! けれど、アグニモンはある場所で立ち止まって動こうとしなかった。どうしたのとネーモンが声をかけても、アグニモンは動かない。 「味方の登場を待っているんだ」 「味方とは、一体……ッ!」 そこまで言ってから、気づく。シキモンになると、五感が研ぎ澄まされること。これは、シキモンとわたしがひとつになっているからだ。今、わたしはデジモンになっている。普段意識していなかったことが分かる。 「……雷。風。……よし、きた」 「きたってなにが……」 「……! 吹雪が!」 アグニモンは、自然の力の到来を待っていたんだ。事実、アグニモンが予測した通りに吹雪の中に雷風が轟く。 「雷よ、風よ、雪よ! オレたちの力となれッ!」 「拓也はん、自然を味方に……!?」 「オレ一人じゃない。神原拓也とアグニモン! デジモンの力、はっきりと感じる」 そうか。これが、デジモンになるということだ。わたしもわたし一人だけじゃない、シキモンと共にある。 「オレは、デジモン! 炎の闘士、アグニモンだ!!」 そう言う彼の背中が、とても強く見えた。 アグニモンは仲間のもとへ、再び駆け出した。シキモンもその後ろを追いかけた。皆を助けなきゃ! ヴォルフモンがメルキューレモンによって倒れる姿が見える。輝二くん――ッ! 「フッ。残りの二人も現れたぞ」 「六人まとめて、あの世に行きなさいっ!」 そんなことさせない! こちらに向かってきたラーナモンを、アグニモンが相手する。水と炎じゃ、水のほうが強そうだったけれど、アグニモンは負けなかった。今までの、アグニモンとは違う。 ならばわたしも、皆を助ける! シキモンはグローブを付けているほうの手に力を込めて、拳を放った。拳は衝撃波となって、虹色が煌めく――! 「可視光拳ッ!」 「サラマンダーブレイクッ!」 シキモンの拳が、デジヴァイスを封じる結界へ。アグニモンの炎が、円柱へ。衝撃波と崩れた円柱が結界を破壊したことにより、デジヴァイスが宙を舞った。 「ヴォルフモン、皆をッ!」 「分かった――ッ!」 「受け取れッ」 ヴォルフモンが光の剣で皆の枷を外し、シキモンはデジヴァイスを投げた。 皆はしっかりとデジヴァイスを受け取って、そして全員が人型へ進化を遂げて悪の闘士の前に姿を現す。 「六人揃えば、我らを倒せると思っているのか?」 「全員まとめて倒すだけよ!」 ラーナモンはそう言うと、カルマーラモンになった。けれど、わたしはちっとも怖くなかった。 「ミョルニルサンダー!」 「トルナード・ガンバ!」 エレキモンの集落を守ったときと同じように、ブリッツモンがカルマーラモンに電撃を喰らわせる。フェアリモンがカルマーラモンを蹴り上げる。 「スノーボンバー!」 「ツヴァイ・ズィーガー!」 メルキューレモンの足がチャックモンの弾丸によって冷やされ、ヴォルフモンの剣がメルキューレモンに降りかかる。 メルキューレモンは倒れて、カルマーラモンの元へとよろめく。そして、空ではひときわ強い雷が閃光した。シキモンは、その一瞬を見逃さなかった。 「色即是空ッ!」 攻撃に打たれた二体を、黒のような、灰色のようなもやが包み込んだ。 「い、一体どうなってるの……!?」 「オレたちには強い味方がついているのさ!」 「そうか、こいつら自然現象を味方に――ッ」 気付いたところで、もう遅い。アグニモンは、拳と拳を合わせた。 「バーニングサラマンダー!!」 二体が燃えていく。風が炎を煽っていた。 これで終いか――と思っていたけれど、二体は逃げてしまった。それでも、勝利には変わりがなかった。 「やった!」 NOVEL TOP ×
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