走り続けた世界
「ヤタガラモーン!!」[2/4] シキモンは跳ぶことはできても、飛べることはできない。いくらシキモンが駆けていっても、なかなか距離が縮まることがなかった。こうなったら、荒っぽいけれどあの手を使うしかない――! 「ヤタガラモン、御免!」 「……ッ!?」 ヤタガラモンに向けて、思いっきりクナイを放つ。見事にクナイはヤタガラモンの頭に当たり、ヤタガラモンは森へ落ちていった。 ぐっ、と拳を握り締め、ヤタガラモンが落ちた場所へシキモンも降り立った。 「ヤタガラモン、すまぬ。しかし、私はおぬしと話がしてみたかったのでござる」 「……」 「以前、私――、比沢想を救ってくれたのは、おぬしござろう?」 自分で言っといてアレだけど、まったくもって緊迫感がないせりふだ。シキモン口調でしゃべると、何を言ってもちょっとぬけているように聞こえてしまう。 ヤタガラモンは何も言わなかったけれど、私を助けてくれたのは――、という問いにだけはこくんと頷いた。 「やはり、そうでござったか。感謝いたすぞ! ……おぬしは、悪の闘士でござるか?」 もしこれでヤタガラモンが、悪の闘士だったら。わたしはこのデジモンを討たなければならない。 けれど、ヤタガラモンから返ってきた答えは、意外なものだった。 「……私はある目的のために動いている、それだけだ」 「ふむ。その目的とは……」 「言えるわけがない。ただ一つ、言えるのは、二つのスピリットを持っていない君は不完全であるということだ」 不完全。――わたしだけ何の役にも立てない。そんな言葉が頭の中をかけめぐった。わたしだけ、色のビーストスピリットを持っていない。それを言われると、わたしは何も言えなくなってしまう。未だにヒューマンスピリットだけ。 何も言わないわたし、シキモンを見て、ヤタガラモンは、空に向かい翼を動かし始める。 「悪の闘士が君の仲間を探し当てたようだから、気を付けなさい」 「何……ッ」 その瞬間、ヤタガラモンがぶれて見えた。どうしてだろうか、ハクジャモンの瞳の金色と、ヤタガラモンの金色が重なって見えた。 ヤタガラモンの今の発言で思い出したのは、わたしがはじめてハクジャモンと出会ったときのことだった。 『スピリットなんてあなたにはいらない、皆に守ってもらいなさい』 ハクジャモンがそう言ったときの声と、今のヤタガラモンの声が重なる。 あのとき、ハクジャモンはわたしを助けた。結局その後、彼女は敵だったということが発覚してしまったけれど。 「ヤ、ヤタガラモ……ッ!」 追いかけようとした。けれど、ヤタガラモンが翼を動かして生じた強風によって、シキモンは弾き飛ばされてしまった。 地面に投げ出されたわたしの心中にあったのは戸惑い、だった。 * シキモンになると、五感すべてが冴え渡る。これがデジモンの生命としての力なのかもしれない。嗅覚に意識を集中させて、シキモンは駆け出す。 ヤタガラモンの言っていたことは本当なんだろうか。だとしたら、皆を助けに行かないと――。 わたしは走りながら、ハクジャモンのことを考える。考えてみれば、彼女が本気を出して戦っている姿を見たことがない。一応は攻撃をしたりはしているものの、彼女はデジモンに必殺技を向けたこともない。 それに、偶然かもしれないけれど、セラフィモン様の城で、わたしの前にハクジャモンが現れた。ちょうどハクジャモンが現れたから、アルボルモンの攻撃がわたしに当たることはなかった。 もしかしたら。わたしが知らないところで――他の悪の闘士と同じようにおぞましいことをしているのかもしれないけれど――本当はハクジャモンは悪い人じゃないんじゃないか。考えすぎ、かな。 走っているうちに、森を抜ける。すると、見覚えのある影が見える。それは、アグニモンとボコモン、ネーモンだった。 シキモンは後ろから走って、声を掛ける。 「アグニ、ボコネー!! 無事でござったか!」 「うわっ、シキモン!? ……って、泣くなよ!」 「シキモンだー」 「シキモンはん、あんさんも無事だったんかい! あと、ワシらの名前を略すなはら!」 アグニモン、拓也くんがいた! シキモンになったから余計に――かもしれないけれど、涙が止まらない。ボコモンもネーモンもアグニモンの肩に乗っていて、無事なことに安堵する。 ボコモンによれば、ヤタガラモンの言うとおり、輝二くん以外の皆が捕らえられているらしい。 「シキモン、こっちだ」 「了解でござる!」 アグニモンが向かう方を見ると、そこにはブーメランが宙に浮いていた。アグニモンはずっとこれを辿って来たようだった。 アグニモンの様子が、ダスクモンにやられたときと違う気がした。根拠はないけれど、そう思った。 消えた間に何があったのかはあとで聞くとして、とにかくわたしは拓也くんを信じて走ろう。 「皆ーッ!」 アグニモンが叫び、大地を蹴った。 NOVEL TOP ×
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