木の闘士成り代わり2
夜は思考の渦が止まらなる。今日も眠れなかった。周りは寝息を立てていて、未だに寝付けないのは俺と彼女ぐらいだろう。身を起き上がらせて、辺りの様子を伺う。今夜も、本来ならば泉の横で寝ているはずの、彼女の姿がなかった。
俺は彼女を探していた。月の光だけを頼りに、道を歩く。彼女は、皆が寝静まった頃に出歩く癖がある。いつ夜行性のデジモンが彼女を襲うか分からない。だから、俺は毎晩彼女を探しに森へ向かう。彼女を守る、それぐらいしか俺には出来ない。
俺は彼女のスピリットを奪い、そして殺そうとした。ダスクモンとして操られていたからなんて、言い訳だ。彼女を傷付けた罪は、醜く残っている。
本来ならば、彼女は穢れのない花だった。綺麗な光を受けて育つべきだった花。それを、その花を、ケルビモンが――そして、俺が摘み取ってしまった。
事実、彼女のスピリットが再び光ることはなかった。彼女のデジヴァイスは、何の光も映さない。そして彼女は心を閉ざしてしまっている。
赦してもらおうなんてことは毛頭考えていないし、俺はこれから先も罪を背負って生きていく。――だから想ってはいけないことなのだ、彼女に惹かれているなど。
雑木林を抜けた先の川辺に、彼女は足のみを入水させ地面に腰掛けていた。他者の存在に足音で分かったらしく、彼女は振り返った。無表情で、俺を見ている。
「……その、危ないよ」
「うん」
だが、彼女は川辺から出ようとはしなかった。月光が、彼女と水面を照らしている。俺は地面に投げ出されている、彼女の靴を拾い上げた。
「毎晩、ごめんね」
彼女は俺の瞳を見ることなく言った。その視線は、ただ水面に向けられているのみだ。
ごめんと言わなければならないのは、俺の方だ。いや、そんな言葉では済まされない。事実、彼女は俺が謝罪するのを拒む。
「……、足、冷えるよ」
謝罪されても、俺は彼女にどういった言葉を掛ければいいのか分からなかった。
彼女はしばらく沈黙したまま、足を動かした。水の跳ねる音と共に、水面に映った彼女の影が揺らいだ。彼女もそのまま消えていくような気がして、俺は恐ろしくなった。
「木村くんも悪いことをしたし、それは私とて同じことだから」
だから、の続きは言わなかった。だが、俺にはその先が分かっていた。だから、赦さない。きっとそう言いたいのだ。彼女は過去の自分を決して赦さないように、俺を赦しなどしない。
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なんだこれ…