御島龍司
暗い話です/短いしまとまりがないです。
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彼らの本拠地である池袋・フーディエから歩いて3分ほどのビルに、その喫茶店はあった。
いわゆるSNS映えのドリンクや飲み物を提供するこのカフェは若い女性から絶大な支持を受けていて、日曜日なんかはそれなりに行列が出来るほどの有名店である。いつもフーディエに向かう途中、は遠巻きにそれを見て、通りすがっていた。それが、今、こうして龍司とここにいる。
「美味いか」
「う、うん」
がそう頷くと、龍司は笑った。自分は紅茶を飲んでいるだけで、ぱくぱくパフェを頬張るを見つめている。
はフーディエのハッカーのひとりだ。ハッカースキルはメンバーの中では一番未熟だけれど、龍司の役に立ちたいとずっと思って、はここにいる。
「……クリーム、付いてるぞ」
龍司が手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
「仕方ねえヤツだな」
呆れたように言いつつも、その顔はけして嫌そうじゃなくて。むしろ、笑っていた。
夢みたいだ、と思った。昭和っぽいほどに硬派で、妹想いな龍司がそんな表情を見せるなんて。
「や、やめてよ」
「別に照れるような仲じゃねえだろ」
「今更そうかもしれないけど……なんか嫌」
がそう言うと、龍司は笑って息を吐いた。本当に、今更、だった。
――龍司の表情に影がさす瞬間があることを、は知っている。
両親を亡くし、治らない病気の妹を守るために生きる、龍司。は昔から龍司のことが好きだった。だが、龍司の背負うものを承知してハッカーになることを、龍司の力になることを決めた。がただの女の子として彼の傍にいることは、叶わない夢だ。
「でも、私だけ誘うって、どういう風の吹き回しなの」
「誘ったのに随分な言い方じゃねえか」
「久しぶりだったじゃない、最近はケイスケくんも入ったし」
「……お前には昔から世話になってるから。それだけだよ」
龍司はそれ以上語ろうとはしなかった。
*
それから他愛のない雑談をかわし、しばらくした後にフーディエに戻った。
龍司はそのまま仕事がある、といってEDENへ接続していった。
「ちゃん」
帰って早々、はエリカに声を掛けられた。そのまま彼女の部屋に呼ばれる。
ファンシーで可愛らしいその空間には、かつてと龍司が二人でお店に行って、エリカに選んだぬいぐるみもある。
にとってもエリカは大切な妹のような、護りたい存在だった。
どうして呼んだのかとエリカに問うと、彼女は俯きがちに答えた。
「お兄ちゃんは、ちゃんに遠慮してる」
「え……」
それはもちろん、龍司との関係についてだった。
仲間、ではあるけれど、第三者からすれば、あまりにももどかしい関係の二人だった。
「千歳も、いつも言ってたよ。早くチューしたらいいとか」
「いや千歳は無責任すぎるでしょ、それ」
千歳はプレイボーイだからそういう発想になるのだ、とは思った。
「とにかくさ、わたしに、遠慮なんかしないで」
「……そんなこと、ないよ」
龍司はね、きっと誰よりもあなたが大切なんだよ、エリカ。そこまで口から出かけた言葉を、はぐっと呑み込んだ。
エリカは二人がもどかしくて、そして何より自責する思いで、を見ていた。
*
家族を、居場所を守ろうとした俺の手は、いつしか汚れてしまった。
カフェでの、の笑顔を思い出す。彼女には、ただ、どうか何も知らないままで、笑っていてほしかった。
ふと、デジヴァイスの通知が鳴る。岸部リエからの連絡だった。
エリカを救いたい。……を抱き締めたい。どうしようもないと分かっていても、既に退路は断たれていた。
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龍司と恋愛する話読みたいけど、本編軸だとどうあがいても暗い展開になりそう…と思い立ち書きました。本編終了後では普通に付き合ってる、はず…。。
ハカメモ夢増えてほし…い…