善悪/輝二
気付いたのはいつだったのだろう。
それは、白い紙に落とした墨のように、静かに、大きく広がっていた。
自分の人生を大きく変えたあの冒険を終え、早三年の月日が流れていた。
友樹だけはまだ小学生だが、話を聞いている限りでは友達も増え、毎日楽しそうだった。変わらずサッカーを続けている拓也は、毎日ボールを追いかけている。泉は友達と頻繁にケーキバイキングへ行っているらしい。時々純平と一緒に行くこともある、と言っていた。そんな純平は、今では内申を気にしていてか生徒会に所属している。
皆がそれぞれ、穏やかな日常を過ごしていた。それは俺も輝一もそうだった。俺は、何か目標が欲しくて、剣道部に入部した。部活は大会も多くあり、次第にあの頃の仲間は全員で集まることが難しくなり、個々に会うケースが増えていった。環境が変われば、仕方がないことだ。
そんな生活の中でも、輝一兄さんとは、二人でよく会って話をしたり、電話をしている。今日もそうだ。
そして輝一のそれは、突然の一言だった。
「のサンとは、会った? 最近」
「い、いや。先々月に全員で会った時以来……」
「そうか。ほっとくと彼氏作るかもよ」
「なっ……」
のこと、に彼氏が出来るかもしれない、という発言。それらに返す言葉を失ったところで、輝一はまあ冗談だけど、と付け足す。
三週間ぶりに会った双子の兄は、まるでどこに本心があるのか全く読めない調子で話をしていた。見た目はよく似ているはずなのに、俺たちはまるで違う。
「のことは、今は良いだろ、別に」
「大事だよ、輝二の大事な人は、俺にとっても特別だから」
「……」
照れもなくそう言える輝一は潔い。
確かに輝一のいうとおり、あの頃の仲間の一人であるは、俺が好きな、特別な存在だった。
内気かと思えば芯が強く、勇気がある。一緒にいると、安心する。そんな理由で惹かれて、気付けばもう三年も経っていた。
「と、何かあった?」
「そういう訳じゃない」
俺の口数の少なさから察知したのか、輝一はそう尋ねて、心配そうに俺を見た。
輝一には何かを隠していても、すぐに悟られてしまう。
「……は、最近、あの旅のことを書き始めたらしいんだ」
反応に困って俺がそう語り始めると、輝一は目を丸くさせた。
「へえ、すごいな。最初から、最後まで?」
「ああ。それがただの記録としてなのか、小説なのかはまだ検討中らしいが」
「……ボコモンも、デジタルワールドで書いてくれてるもんな」
あの時、ボコモンは別れ際に俺たちのことを書き残し、デジタルワールドに伝えていくと言ってくれた。
いつか旅の中で語られた、古代神話のように。
そして、あの頃の体験を、文章として残したいというのは、が密かに語ったほんの細やかで、壮大な計画。
「なんだっけ、確かそういうのって、回顧録っていうんだ」
回顧録。ボコモンと。デジタルワールドと、リアルワールド。二つの世界で、同じ物語が追憶の中で描かれる。
誰もあの頃の熱を忘れたくなくて、夢を見て生きているのだ。
それなのに。
「相談には乗るからね、輝二」
輝一はいつもどこか悟っているようで、俺はどこか寂しい。
それでも、俺は尚、一歩を踏み出すことが出来ずにいた。
こんな感じの暗い輝二くんのお話を書きたい、
というか書いているのだけれど全然まとまりません( ;∀;)