黒いニット帽の男(ネクオダ)
 いつだって、彼は神出鬼没だった。

「よっ。テイマー頑張ってる?」

 パートナーがトイレに行きたいと訴えたので、公衆トイレに足を急がせていた。パートナーがトイレに駆け込んだ矢先、は彼に声を掛けられたのだった。
 トイレの前で遭遇するだなんて、シチュエーションとしてはあまり良いとは言えない。

「お、お兄さん……」
「びっくりしないでよ。あ、挑戦ニンジンを持ち歩いてるんだね、偉いじゃん?」
「いきなり現れたらびっくりしますって! これはさっき拾ったんですよ」

 彼はの手に握られている挑戦ニンジンを指差した。これは先ほど落ちていたのを拾った物だった。
 そうしている間に、パートナーのベタモンがぴょこぴょこ歩いてトイレから戻ってくる。

「あー! ニット帽だ!」
「ベタモン! よしよし」
「……」

 彼を見るやいなや飛びつくベタモンを、は見つめた。
 彼がベタモンを撫でる手つきは本当に優しい。その仕草から、彼が優秀なテイマーであろうことが伺えた。しかし、は彼が何者であるか知らない。
 デジタルワールドでパートナーを育成しつつ旅をしていたの元に、ある日突然現れたのが彼だった。自分より少し年上の彼は、行く先々でアドバイスをくれたが、自分の素性は一切明かそうとはしなかったのだ。現に、は彼の名前すら知らない有様なのでデジモンのお兄さん、と呼んでいた。

「お兄さんは、いつもパートナーと一緒じゃないですよね」
「そうだね。俺のパートナーは、色々あったんだよ」
「色々って……」
「まあ、俺のことはいいじゃん! この子の育成方針とか考えてるんでしょ? それを聞かせてよ」

 はベタモンをシードラモンに進化させるつもりでいた。それを言えば、きっと彼はシードラモンへと進化させる確かな方法を答えてくれるだろう。けれど、は彼の話を逸らすその対応こそが気になってならなかった。
 いつも、彼は飄々としている。けれど、彼の表情には影がさす瞬間があるのを、は知っていた。

「私、それよりお兄さんが何者か気になるんですけど……」

 そのまま疑問に思ったことを尋ねる。すると、ベタモンがぼくの進化より大切なことなの!? とショックを受けていた。そうじゃないんだよとベタモンには言い聞かせるようにはベタモンを抱きしめた。

「俺のことはさ、三月十七日になれば分かるよ」

 ふふ、と彼は笑う。何故その日にちなのだろうと思って「何ですかそれ……」と聞き返した。いつも何を言ってもはぐらかしがちな彼が、具体的な日にちを伝えたのは初めてだ。

「デジモンの新作ゲーム発売日だからさ!」

 輝かしい目をして彼は言った。
 やっぱり、何を聞いても逸らされてしまうんだ。は呆れて物も言えなかった。
 ……実際にが、三月十七日に発売されるデジモンワールドの最新作をプレイして衝撃を受けることになるのは、また別のお話である。




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デジワー初代プレイしてたのでネクオダの彼が大いに気になっております。。笑
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