善悪/もしも双子の立場ry 2
※闇の大陸入る直前にしてそうなやり取り。


 輝一くんは表面的には優しいはずなのに、人を避けている。だから、彼はデジタルワールドに来てからしばらく、わたしたちと行動を共にしようとはしなかった。
 わたしは、それが悲しかった。優しくて、守ってくれているのに、それはどこか自己犠牲的だった。
 わたしは、今輝一くんの隣にいる。でも、わたしと輝一くんの間には境界線があるように感じられた。

「……俺はね、怖いんだよ」

 ――だから、輝一くんが、わたしに自分の想いを話してくれるとは思わなかった。

「デジタルワールドに来るとき、俺に課せられた謎が解けるってオファニモンに言われたんだ」
「謎、って、どういう……?」
「……俺の母さんは、俺が小さい頃に亡くなった。だから、写真でしか知らないんだけど……本当は、生きているんじゃないか、って思ってる」
「えっ、理由が……あったの?」
「ちょっとね。だって、今まで一度も墓参りにも行ったことがないし、母方の親戚にも会ったことがない、理由を聞いても曖昧だ。わざとそうしているんじゃないか、ってくらい、俺は本当の母さんのことを知らないからさ」

 輝一くんは俯きながら語った。
 ずっとそんなことを抱えていたなんて、わたしはどういう言葉をかけたらいいのか分からなくなっていた。
 ――でも。そうして、疑っている事実があるから、だから、輝一くんはわたしたちにも壁を作っていたんだ。

「だから――俺は、その答えが知りたくて、デジタルワールドに来た」
「そう、だったんだ……。輝一くんは、そういう目的があって、頑張ってたんだね」

 来たくもないのに、いつの間にかデジタルワールドに来ていたわたしとは大違いだ。
 輝一くんは、強い思いを貫き通そうとしている。
 それから輝一くんは、また語りだす。

「だけど、俺はね、真実を知るのが恐い。すべて知ってしまったら、俺は人を信じられるか不安になるから」

 知りたくて来たのに、おかしいよね。輝一くんは悲しそうに笑った。
 
「……俺は、どうしたらいいかな」

 輝一くんがわたしを見る。
 きっと、本当は彼だって寂しいはずだ。
 優しくて、何でもできるように見えるけど、本当は輝一くんだって不安でいっぱいなんだ。
 わたしは、そっと輝一くんの手を取った。

「もし、輝一くんが人を信じられなくなっても……、わたしは、そう話してくれた輝一くんを信じるよ。それに、こうして話してくれるなんてさ、わたしを信頼してくれたのかな、って思ってる、し」
「想ちゃんは……優しいよね」
「そんなこと、ないよ! だって、輝一くん頑張ってるもん。だから……大丈夫」
「大丈夫、か。……ありがとう。ごめんね、こんなこと話して」
「ううん、謝らないで。わたし、輝一くんとは、本音で話せるようになりたいもん!」
「くっ……、そんなこと、言われたの初めてだ」

 輝一くんはくしゃっと笑った。
 輝一くんが笑ってくれたことが嬉しくて、わたしも釣られて笑った。

「俺、これからはもっと想ちゃんや皆を知りたいと思う」
「うん、それがいいよ」

 その言葉にわたしは笑う。けれど、一つのことが気になった。――想、“ちゃん”。

「じゃあ、さ。輝一くん。わたしのことも、呼び捨てで呼んでよ、泉ちゃん呼ぶ時みたいに、さ」
「え、呼び捨て、って。いいの?」
「いいの。だって、わたしだけちゃん付けされてて、距離があるみたいだったんだもん」
「……うん。君に関わることも恐かったから、だから想ちゃん、って呼んでたんだ」

 泉ちゃんはよくても、わたしに関わることが怖かった、のか。
 わたしも、人と壁を作ってしまうほうだ。もしかしたら、同じものを抱えているからこそ、輝一くんはわたしに近付くことが嫌だったのかもしれない。

「でも、これからは想、も呼び捨てでいいよ。俺、想とは『本音で話せるようになりたい』し」
「……! わ、分かった! 輝一!」

 こういち。
 いざ、口にだすと不思議な感覚だった。

「あ、そういえば、わたし男の子呼び捨てするのはじめてかも……」
「じゃ、俺が呼び捨て1号だね」
「えへ、そうだね、輝一っ」

 わたしと君は、対等になるんだ。
 優しい君が、何も気にしなくてもいいように。人を、信じられるように。


*

 その日の夜、わたしは夢を見た。
 わたしは、真っ暗な世界を走っていた。何も見えない、闇の中を走っていた。
 何をそんなに急いでいるのか分からなかったけれど――、足を懸命に動かし、先を急いでいた。
 先の方に、光が見えた。わたしは、あの光目掛けて走っているんだろうか。そう納得したところで、後ろから風の音が聞こえた。
 わたしは振り返って――そこにいる人に、驚いた。

「……こう、いち?」

 輝一にそっくりな男の子が、そこにいた。でも、よく見たら、彼は輝一よりもずっと髪が長い。
 彼はうつろな瞳で、わたしを見ていた。

「輝一じゃ……ない」

 きっと、輝一じゃない。漠然と、そう思った。わたしは、あなたは誰なの? と聞きたかったけれど、まばたきをすると彼は消えてしまった。



−−−
この子ら小学生なのに、乙女ゲーのルート突入したての時に発生するイベントみたいな展開になったよ!
輝一おちなのか輝二おちなのか全く読めない話( ^)o(^ )
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -