ジェン
暗い話


 パソコンを起動させ目に写ったのは、かつて、共に世界を守った友人からのメールだった。今年、また皆で会わないかとの連絡だった。

 輝く未来を信じ、夢を見ていたあの頃には、もう戻れない。
 漠然と思うのは、過去には戻れないということだった。子どもと呼ばれた時期は過ぎ去り、僕は大人になった。
 昔の思い出に浸るのは好きではない。けれど、僕は過去のことを――とりわけ彼女のことを、思い出してしまうのだった。
 彼女はいつだって真っ白で、純粋だった。いつだって明るく笑っていた。純粋だったからこそ、僕は彼女に恋をしたのだ。僕らは想い合って、いくつかの季節を少女と過ごした。本当はそうならないと理解しているはずなのに、ずっとこの時が続くかのような錯覚がした。僕は、誰よりも彼女を愛していた。
 あの頃の僕らは、どこかで終わりを迎えるだろうことを分かっていても、永遠に時が止まるかのように二人でいることを夢見ていた。しかしそれは叶わなかった。
 物事には始まりがあって、終わりがある。それは、テリアモンと過ごしていたあの頃から分かっていたことだ。今の僕の隣には、彼女はいない。
 ずっと二人でいられたらいいのに、と言って、寂しそうに笑う彼女の横顔が、今でも鮮明に思い出せる。

 大学を卒業してから、僕は単身で父の祖国である香港に渡った。出来ることならば、彼女を連れて国へ渡りたかった。けれど、僕らにはすべてを振り切ってまで共に在ろうとする強さはなかった。そうして、あの時僕らの恋は終わったのだ。実際に終わりを迎えてしまえば、胸に残ったのは虚しさだけだった。

「私がジェンだったらいいのに。そしたらジェンの痛みも分かるし」

 過去に彼女が呟いた言葉を思い出す。愛する人そのものになりたい、という願望はある種一つの真理なのだろう。しかしそれでは成長できないままだ。当時はそう言った彼女を笑って否定した。
 だが、今の僕は成長できずに、君のことばかりを考えているんだ。

 何年経っても、僕にとっては小学校時代の友人たちが一番気を許しやすい存在だった。――彼女は、参加するんだろうか。僕は参加の意志を表したメールを送信するか、悩んでいた。
 彼女もテイマーとして共に戦った大切な仲間だった。それ故に、僕らの繋がりは恋人という関係以外にも強いものだった。今彼女に逢ったところで、自分は過去の垣根などなかったかのように振る舞えるのだろうか。僕は未だに彼女を恋慕しているのかと言えば、おそらくそれは違うだろう。今の僕の心に焼き付く存在として、彼女が消えることなく佇んでいる。
 机の引き出しには、未だに捨てられない笑顔の彼女の写真がある。未練がましいのは自覚しているが、捨てることができなかった。
 僕らは大人になった。いつか君も僕も誰かと結婚をして、家庭を持つだろう。きっと僕の感情もいづれ、少しずつ消えていく。
 東の方角を眺める。空は暗さが増し、夜が近づいてきている。今の生活には満足している。ただその中に、君だけがいなかった。




昔書いてた文章を発掘
ラスアラの漂う夕暮れに、消えていく日々を聴きながら書いていました。
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