善悪/33.5話
想が何回考えてもゆるせないのは、アイスデビモンの行ったことだった。
「……あいつ、わたしっていうか、イナバモンのほっぺた舐めた。変態」
「ボクもだよー」
想と友樹は二人で、どんよりとした空気を漂わせている。というか主に、想がぶつぶつ文句を言っていた。泉がどうすんのよアレ……と呟くが想には聞こえていない。
想が誰かのことをあいつ呼ばわりする様子ははじめてだった。全員、変わったものを見る目で想を見ていた。
「あ。シキモンだったら絵面的に厭らしくてやばかったからイナバモンでマシだったのかな……」
「……想」
またぶつぶつ言っていた想に、輝二が近づいた。輝二は悲しそうな表情だった。
「……想。俺のデジヴァイスが凍ったばかりに……ごめん」
「(なんかわたし、最近輝二くんに謝られてるなあ)や、輝二くんのせいじゃないよ! 悪いのはあの変態だもん……そりゃ復讐したいとかは思ってるけど」
「想、地味にひどいこと言ってるな……けど、分かった。想が言うなら、俺たち二人で復讐しよう」
輝二はいつでも想を守りたい、と思っていた。無邪気に振舞っているが、どこか儚げな想を。
輝二は真顔だった。そして何故か、輝二の言葉によって想は顔を赤らめる。――輝二くん、わたしのためにそこまでしてくれるなんて――!
拓也はこいつら陰険だ、と思った。
「おいお前ら! 一応、アイスデビモンは嫌なヤツだったけど……浄化しただろ?」
「いくら浄化してもわたしの心の傷は癒えないよー!」
「想の言うとおりだ」
「めんどくせえ! てかなんで輝二もさっきから想に同意してんだよ!」
「いいだろ、別に」
復讐だ復讐だと騒ぐ想も、同調する輝二も、何だかとても楽しそうに笑っていた。また想はどこから出したのか、シキモンのクナイを握りしめて「やだよこれで復讐するもん!」と騒ぎ立てている。
輝一は、そんなやりとりを見ながら思う。――輝二たちには仲間の絆があって、互いに信頼しあっている。俺は、そんなあいつらに憧れている。俺も、その仲間に在りたい――、と。
「なんかよく分かんないけど――輝二と想ちゃんが復讐したいなら、俺もするよ」
「陰険組が増えた!?」
拓也は口をあんぐりと開ける。輝一は、きらきらとした瞳で、拳を固く握りしめていた。――友樹は(闇属性の輝一さんが復讐とか、シャレにならないんじゃ……)と思う。
輝一は、そんな友樹には気付かずに語り始める。
「俺、よく輝二の跡追ってたから、尾行は得意だし。転生したアイスデビモンを見つけて付け回して、弱みを握るんだ」
「こ、輝一くん……すごいよ! ありがとう! 嬉しくて泣いちゃ、う……っ」
「さすが、俺の兄さんだ……」
「お前ら……本当に正義の味方かよ!」
想と輝二は感動して泣いていた。
拓也のツッコミも、この双子と陰険な少女には届かなかった。
*
「泉は、なんか言わないのー」
「風のおねえちゃん〜!」
「まあ、兄弟が仲良くなるなら、いいんじゃない? 手段はどうであれいいことだと思うわ」
「適当じゃまき」
「あたしに被害ないことなら別にいいわよ」
「さすが泉ちゃん! そこに痺れる憧れるゥ!」
泉と純平は、そのやり取りを傍観しているだけだった。復讐とかつけ回すとかで盛り上がっているけれど――実際にデジタマが転生するのは、違う時代だとボコモンから聞いたことがあった。だが、今それを言うのは可哀相だと思ったので、泉は何も言わなかった。
130912
たぶん34話に入る前にこんなやり取りがあったはず。ぎゃ、ぎゃぐなの…?
本編に入れたかったけどあまりにもキャラ崩壊してるのでこっちに。おかげで名前変換ありませんが。