善悪/拓也と望
数年後設定。電波ゆんゆん。



 何年も経ってしまったのに、忘れることの出来ない記憶がある。それは私があの出来事で、罪を犯してしまったからだということが、大きい。
 久しぶりに想たちと会うことになり、私は自由が丘から東横線に乗ろうとした。ホームには、自由が丘が最寄り駅である拓也がいた。

「望!? 自由が丘からなんて、どうしたんだよ?」
「今日は大井町線乗り換えで来たからね」

 私はそう言って、拓也と共に電車に乗り込む。
 今日は、年に数回行われる、かつてデジタルワールドに行っていたメンバーで集まる会。私は直接デジタルワールドで会ったことはないが、友樹の友人の勝春という少年たちも一緒だ。
 敵として、そのまま現実世界に戻っただけの私がこの会合に出ることが良いのか。私は望ましくないと思っていたが、想や拓也は、催しのたびに毎回私を招待してくれていた。根がいい人たちなのだ。

「お土産、買ってきたよ。シュークリーム。あとで食べよ」
「まじか、よっしゃ。ありがとな、望!」
「どういたしまして」

 拓也が笑う。つくづく私とは正反対の眩しい笑顔だ、と思う。こんな彼だから、あの世界を救うことができたのだ。
 対して私は――。近頃、何だかラーナモンが、私を散々ブスだと罵っていた声が、アルボルモンの謎のことわざが、グロットモンの意地の悪い喋り方が、メルキューレモンの厭味ったらしい性格が蘇る。
 私は、僅かな時だったけれど確かにあの世界に存在していたのだ。けれど、私は再びあの世界に行くことを選択としなかった。当時はそれが最善の償いであると信じていたけれど、何年も経ってしまった今では少しの後悔がある。
 今だったら、きっともっと上手く立ち振る舞うことが出来ただろう。私は世の闘士として、彼女ははじめから私からビーストスピリットを奪うことはなく色の闘士として在れたはずだ。

「……ねえ、拓也」
「なんだ?」

 駅に着いて、電車が停止する。二人分のスペースがちょうど空いて、私たちはそこに座る。移動しながら、私は話す。かつての、私がハクジャモンでありヤタガラモンであった時のことを――。


『ちょっと、ブス。アンタってどうせ友達もいないんでしょう。ファンに貰ったから、一緒に食べてあげてもいいわよ』

 いつだったか。ラーナモンはそう言って、調理済みのニクリンゴを差し出した。私の横に座って、それを頬張っていた。
 ――少なくとも、私はラーナモンに対しては同情があったのだと思う。
 あまりにも気の強い性格であることを除けば、彼女はいたって普通の少女だった。私(厳密に言えばハクジャモンだが)を罵ることはあっても、それは心からの言葉でないと分かっていた。
 だから、そのラーナモンが倒されたと知った時、私は少し落ち込んだ。勿論、彼女は罰せられるべき行いをしてきた。だから、当然の報いではあった。だが、それは私とて同じだ。
 ハクジャモンであっても、人間としての自我が残っていたからいたずらにデータを荒らし蝕むことはしなかった。しかし、完全にデジモンを傷付けなかったのか、といえばそうではない。ケルビモンにデータを差し出さなければ殺されてしまうのだ。なるべく罪のないデジモンは攻撃しないようにしたが、――結果的には私はデジモンを傷付けた。だから、私は自分の罪が恐ろしくて怖くて、デジタルワールドには行けなかった。

「……ごめんね。突然、こんな話をしてしまって」

 何故、私は彼にこんな話をしてしまっているのか。ずっと、何年も私の胸に秘めていた咎だったのに。
 誰かに、聞いて欲しくなったのだ。

「いや、俺は全然平気だよ。……望は、ずっとそれを抱えていたのか」
「うん。あれやこれやと理由を付けていたけれど、結局私も逃げたのよ。私が傷つけたデジモンから、世界から」

 デジタルワールドから人間界に戻って来てしばらく、私はうなされた。もしかすると、輝一もこの感覚を味わっていたのかもしれない。いくら世界が救われても、自分の行いが消えるわけではなかった。

「でも、望はよく今まで耐えたよ。確かに望は悪いことをしたけど、ちゃんと向き合ってるじゃん」
「……うん」
「つか、そもそもお前がそーなったのって、ケルビモンが悪いんじゃん?」
「そう、かしら」

 私がそう言うと、彼は当たり前だろ、と言った。素直に発言できる、彼はきらきら輝いているような気がした。

「なあ望。お前も思ったこと全部、言っていいよ。望も、俺の仲間だよ」

 その時、電車が再び停まる。私たちが下車する駅だった。
 行こうぜ、と拓也は立ち上がり、私を見た。私は、彼に夕樹の面影を見た。

「……ありがとう」

 そして、私は電車から出る。降りた先は、何年も前のあの日にすべてが始まった地――渋谷駅だった。




130912
続く……のか!?
突発的に書きたくなったので、書いてみました。
望ちゃんも途中退場したことに対してなんかしら思ってそうだよな、って思って書いたんですけど意味わからん作文に……
きっと拓也くんたちは最後まで戦ったメンバーで集まることが一番多いけれど、たまには勝春あたりや望ちゃんを誘ってるんじゃないかなあという妄想。
望ちゃんは夢主さんを通じて知り合ったけれど、拓也くん泉ちゃん輝一くんとはメールを飛ばし合うレベルの仲。
夢主さんも望ちゃんも過去の行いの罪悪感に苛まれている点からして、とても似たもの同士だと思います。ただ単に善悪の彼岸のテーマの一つに贖罪があることも関係してますが。
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