永遠の存在など無いのです。







「…大変失礼致しました」


「元に戻るの早いね、名前ちゃん」


ひとしきり泣いた名前ちゃんは涙を拭くともうさっきまでの名前ちゃんだった。無表情は相変わらず、泣いてるときは少し人間のようだったのに、人形のようにピシッと背筋を伸ばす彼女はやっぱりどこか人間離れしている。でも目が赤い。



「…見ていただいてわかったと思いますが、貴方の人として持っていたモノを私が頂きました。」
「モノって?」
「閻魔大王の業務に不必要なもの、と思ってくださってかまいません。」
「…ふーん」


つまり涙は不必要ってことか。


「じゃあ俺はもう涙出ないんだ?」
「いえ、身体は人間のままですから出そうと思えば出ます。」
「出そうと思えばって?」
「目に石を投げ当てるとか」
「…なるほど」


無表情で言われると少し怖い。どこを触ってみても体に変化は見られないし、ぶつけでもしたら涙くらい出るだろう。腕をぐ、とつねると痛かった。感覚もある、ついでに夢じゃない。


「貴方はいくら悲しくても苦しくても涙は出なくなった。代わりに私は貴方から貰いましたから、大王がいなくなった悲しみから涙が出たんですね。」
「…そういうこと言えるの、名前ちゃんらしいね」


なにがですか、と名前ちゃんは首を傾げた。俺の教育係は少し変わり者だ。


「名前ちゃんは人間じゃなかったの?」
「今も昔も人間です。」
「だって今までは涙出なかったんでしょ?」
「人間が大王の秘書になるには貴方と同じように不必要なものを取り除かなければならないんですよ。」
「わぁお…そうなんだ…」
「それに人間は手続きも色々面倒なので、人間の秘書はオススメしません。」
「えー…人間じゃない秘書っているの?」
「一般的には鬼でしょうか。…閻魔大王の業務に秘書は必要不可欠ですから、ちゃんと選んだ方がいいですよ。」


鬼…。鬼と言うのはあの鬼だろうか。角が生えてて、身体が物凄く大きくて、暴力的な感じがする、あの。
名前ちゃんをみる。
俺より小さいし、無表情気味だけど美人だし、頭もいいと思う。どんなに鬼より体力も力もなかったとしても、更に手続きが面倒だったとしても絶対に秘書は人間にしようと心に決めた。可愛い女の子だとなおいい。


「…名前ちゃんは俺の秘書はやってくれないの?」
「死んでもごめんです。」


もう死んでるじゃん、と小さく呟くと名前ちゃんはこちらをにらんだ。
それにしても名前ちゃんは結構ひどい。


「私の大王は先代だけですから。」

「名前ちゃん一途…!」


また名前ちゃんに睨まれた。
睨むと言ったって少し冷たい目をされるくらいだけれど、やっぱり怖い。
名前ちゃんは俺の秘書はやってくれないのか。人間だし、頭もいいし、可愛いし、選ぶ手間は省けるし名前ちゃんが良かった。
名前ちゃんは大王秘書じゃなくなってしまうのか。



「あれ…じゃあ名前ちゃんってこれからどうするの?」
「消滅します」


淡々と、そう言った。
俺と目があって、すぐにそらされた。また泣きそうに見えたのは気のせいだろうか。





「貴方が閻魔大王となる一週間後に、私も消滅するんです」



名前ちゃんの声が震えていたのは、きっと気のせいじゃない。



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