「あなたは新たな閻魔大王様に選ばれました。」










どうやらそうらしいのだ。







「光栄に思いなさい。あなたは選ばれました。これから一週間で私があなたに必要なことを最低限教えます。自分の義務をしっかりと果たしてくださればなにも文句はありませんが、貴方しか出来ないことは貴方がやらなければならないということをお忘れなく。時間はあまりありません。貴方が覚えるべきことは山ほどあります。まずはその服を」


「ちょ、ちょっと!」


俺が声を上げるとあからさまに名前はいやそうな顔をして口を閉じた。

大王が消えた部屋で、俺は閻魔大王に選ばれたことを知った。次の閻魔大王はなんと俺らしい。 名前はてきぱきと俺の着替えを用意して、釣られるように俺も手早く着替えた。もちろん名前には後ろを向いていてもらったけれど。  
真っ黒な服に着替えた俺をみて、名前は満足そうに頷いた。


「…あの、君は?」
「はい?」
「名前ちゃん、だよね。大王にそう呼ばれていたし」
「ああ…はい。私は名前、大王の秘書をしておりました。そして貴方が閻魔大王になるまでの教育係…といったところでしょうか」


名前、改め名前ちゃん。
姿形は人間の名前ちゃんだけれど、本当に表情がない。困惑しまくりの俺をわかってくれてるんだろうか、いや、わかってないだろう。


「え、あのさ、閻魔大王に俺がなるの?」

名前ちゃんが不思議そうにそうですが、と言った。


「さっきここにいた人、閻魔大王だって言ってたよね?」
「…ですから新しい、と言いましたよね?話聞いてましたか」
「…すみません、聞いてました。じゃあ大王は?」
「消滅しました」


今日の夕飯はオムライスになりました、みたいなテンションで言われても困る。でも名前ちゃんは相変わらずのロボットっぷりだった。
見てましたよね、と鋭く言う。見てたよ。


「なんで消滅したの?」
「神様がそう望んだからです。貴方を次の閻魔大王と決めたのも神様です。」
「なんで俺が?」
「神様が決めたからです。…言っておきますが、貴方が選べるのは閻魔大王になるか消滅かですよ。」


なんだそれ。
ほぼ一択じゃないか。



「ちょっと貴方、こちらへ」
「?はい」
「…初めてやるのでできるかわかりませんが」


名前ちゃんは俺を呼びつけると俺の額に手を伸ばした。俺の方が少しばかり背が高いから少しだけ辛そう。

名前ちゃんが目を細めた。

ポワ


「っあ!」
「…取れた」


突然身体から何かを抜かれた感覚がした。
魂かと思ったけれど特に何か変わった感じはしない。だけれど、名前ちゃんの手の中にはたしかに俺の中にあった、何かがあった。 でもすぐにそれは名前ちゃんの中に消えた。


「…いまの、なに?」
「…簡単に言うと、人の貴方…でしょうか…っ…」
「名前ちゃん…?」


突然だった。名前ちゃんの頬を涙が伝ったのだ。
驚いたのは俺よりも名前ちゃんの方だった。
目を見開いて、頬に触れた。だけれど涙は止まらない、すぐに嗚咽が漏れはじめて名前ちゃんは両手で顔を覆った。


「…う、そ」
「な、なに?どしたの?」
「っ…あなたの…っ…私が貰ったから…!」
「俺の?」


人の貴方、と名前ちゃんは言った。止まらない名前ちゃんの涙。 俺の涙を、彼女は受け取ったのだろうか。
でもただ泣いているようには見えなかった。
肩を震わせて、無表情なはずなのにとても苦しそうで。



「…悲しいの?」


「わか、りません…っでも…」
「でも?」







「大王が…消えてしまったから…!!」







俺の教育係はロボットなんかじゃないらしい。



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