アーサーが私に教えてくれる二つ目の真実は、その日の真夜中にあった。


私にとっては一生にあるかないかくらいのカミングアウトを終えた後でも、変態紳士の性欲は収まりを見せなかった。私も気が動転しているし、何か考えているよりは彼に身を任せていた方がいい気がした。



「っねぇ、あ、さっ…」

「…俺もう、やばいからな」


暗闇にアーサーの白い肌がぼんやりと浮かぶ。いつも入っているコンタクトがないから、本当にぼんやりとだ。意識もアーサーに与えられる快感と疲労で保つのがやっとの状態だった。もう、このままずっとこうして彼に抱かれていたい。そんな風にすら思えた。
しかし、下半身に熱いものが押し当てられる感覚がして、一気に意識が覚醒した。目が、見開く。


「アーサー、まっ…ゴムは…?」

「あー…」


アーサーはガシガシと頭を掻いて、大丈夫だと呟く。いつもなら絶対につけるものを、探す素振りさえない。


「ちょっ、だ、だめ、今日はぁっ!!」


「ごめん、名前。後で謝る」


ぐっと押し入れられる。
そうなってしまっては、もう私に抵抗する力なんて残されていなかった。

白い、意識が閉じる。














「馬鹿じゃないの!?」


後処理まで終えてようやくそう怒鳴ることが出来た。流石に平手打ちでもかましてやろうかと思ったが、本気アーサーに付き合って足腰が立つわけもない。情けないが布団の上に座ったまま、彼を睨む。
いや、本当は泣きそうだった。絶対にゴムは付けてくれといままで三年間言ってきたのに、こうも簡単に裏切られるとは思わなかった。しかも今日は安全日じゃない。
考えるだけで血の気が引いた。


「ごめん」

「今謝って何になるのよ、どうすんの、もしこれで」

「違う」


首を振るアーサー。何が違うのと目で訴えた。


「絶対に出来てないから」

「なにいって」

「俺は、種無しなんだ」

「…は…」


種無し、たねなし?
一気に意識は数時間前のカミングアウトまで遡った。
そうだ、アーサーは人間ではないのだ。種無し、つまり、いくら出そうと子供は出来ない。でき、ない?


「…ほんと、なの…?」

「ああ。今まで餓鬼は一人も出来たことないし、国が子供持てるわけないだろ?」

「じゃ、じゃあ…今まで付けてくれてたのは…?」

「名前が安心出来ない」


今まで何百人の女性を抱いてきているアーサー。その確率がどのくらい低いかくらい私だってわかる。さっきまで熱くて堪らなかったお腹の中が急に冷たくなった気がした。


「お、おい、名前…!」


涙が止まらなかった。子供が出来ていないことへの安心。ううん、それ以上に何かに対する絶望だった。

付き合って間もない頃にした二人の間に生まれるかもしれない子供の話。
可愛いと思う、なんて幸せな未来を夢見たあれは、ありえないことだった?


「悪い、先に言えば良かったな」


怖かったよな、とアーサーが申し訳なさそうに言う。違う違う。これは、この涙はただの同情だ。首を振るけれど、彼には伝わらない。


「待ってろ、タオル持ってくる」


ぽふ、と頭に手を乗せられてアーサーが遠ざかっていく。

あぁなんて卑しいんだろう。なんて、自己中なんだろう。
人間はないものねだりばかりだ。

冷たい私のお腹に手を当てる。
生まれてはじめて、ここに小さな命が宿っていればいいと思った。






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