「苗字、おはよ」


「あ、おはよ、平田。クラス表どこ?」


「ん」



どんなに歩いてくる道に人の気配が無くても、いるところにはいるのだ。それが誰でも義務としてならねばならない学生が集まる場所であるなら尚更。

たまたまそこにいた一年の時クラスメイトだった平田が指差したのは校舎の前にある掲示板。聞くまでもなく人が集まっている。
自分のクラスは気になるが、あそこに入るのか…と思うと足が進まない。


「お前、B組だぞ。」

「え、マジ?なんで知ってんの?」

「俺もだから。」


たった今卒業までクラスメイトになった平田がニッと笑う。いい忘れたがこの学校は二年でクラス替えがあって、三年はない。進路とかの関係で教員が変わると面倒だからじゃないかと思う。


「名前ー!」

「サキちゃん!おはよ!」

「同じクラスね、良かった!」

「え、ほんと!やったー!」


もう一人クラスメイトになったサキちゃんは、私なんかよりも全然セーラーが似合う。もはや言うまでもないが私の通う日和学園高校は私服校である。
一年の時一番仲の良かった二人とまた同じクラスなんて私は随分運がいいらしい。
女子特有のぴょんぴょん跳び跳ねる喜びかたで一通り喜ぶと、ふともう一つ重要なことを聞き忘れていたと思い出す。



「あ、先生は?」


「…え?…あ、ああ、うん…先生ね…」


「苗字、良かったな」


「…待って、…まさか」


「おぉ!!!セーラー!!!」



聞き覚えのある声がする。
あぁ、やっぱり良いこと続きとはいかない、いや、逆にマイナスかもしれない。
苦笑いするサキちゃん。
振り返るとにっこり微笑む変態がいた。

思わず顔がひきつる。


「…本当にっ…!?」


「うわぁああすっげぇ似合ってる!!あれ、でも俺が渡したやつじゃないね、なんで?」


「渡してないだろ!奪って置いてったの!閻魔、私のブレザー返せ!」


「こらこら、学校では先生でしょ?苗字サン。あ、牛山さんもセーラーちょーかわいー」


閻魔だった。

閻魔は私の隣の部屋に鬼男と一緒に住んでいるセーラー野郎だ。変態なのにこいつはなんと私の高校の教師をしている。

閻魔は今日はスーツ姿だ。まぁ一応こんなでも先生なのだし、始業式にスーツは当たり前か。それにしてもこの間まで紫の髪をしてたから黒く染めてあっても紫が少し浮き出て見える。
しかもよくわかんない四角いネックレスみたいのしてるし、スーツなのに健全じゃない。


「ちっ…」

「仕方ないだろ、お前と閻魔先生、血が繋がってるわけじゃないし」

「死にたい…」

「っていうか名前、ブレザー取られたってなに…?」


ニコニコしながら私やサキちゃんのセーラーを観察する閻魔は先生をやめるべきだと思った。



「朝から最悪よ…」


「なーに言うの、俺が担任で幸せでしょう?」


「っんなわけあるかぁああ!!不幸だ、死にたいくらいにね!」



私が噛みつかん勢いでそう怒鳴ると、そっか、と閻魔は笑った。







不幸せの笑顔

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