「あれ、妹子くん、部活は?」




授業中はぐっすり眠っていたのに、放課後になると急に目は覚めるらしい。クラスが変わって初めて隣の席になった苗字さんはずるずるとジュースをすすりながら僕を見つめていた。
いつもならスポーツバッグ片手に走り出すところだけど、今日は無い。それを不思議に思っているらしい。


「いや、今日は無いよ。なんで?なんかあった?」

「あ、ラッキー。あのさ、申し訳ないんだけど、掃除当番変わってくれたりとか…」

「しないよ。」


ですよねー、と苗字さんは苦笑い。いつも通りにふざけて笑って、掃除が始まる時間を待っている。
でもなんだか様子が変だった。ちらちら時計ばかりみたり、他の子にも変わってくれないか、とさりげなく聞いている。
何かあるならそういえばいいのに。
そう思ったら自然と席を立っていた。


「…ねぇ、やっぱり変わるよ」

「へ?」

「なんか用事、あるんじゃないの?」

「い、いいの!?」

「いいけど、今度ジュースでもおごってよ。バスケ部休み少ないんだから。」

「もっちろん!ありがとう、妹子くん、大好き!!」


ぎゅっと手を握られて、ぶんぶんと振られて離される。
鞄をもって、もうダッシュ。


変な子。
そう思ったけれどなんだか頬が緩む。少しばかりいいことをしたからだろうか。




「…大好き、とか言われたの初めてだな…」




誰にも聞こえないように呟いて、立て掛けてある箒を握りしめた。


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