あの戦いからどのくらい時間は経ったんだろう。


…なんて、思いはするけどそこまで時間は経っていない。旅の間は大変だったけれど、それがあっという間だったから時の感覚がおかしくなってるんだ。

あの旅でいろんな人と出会って、沢山の経験をした。世界を回って、戦って、泣いて、笑って。






それで全部終わったのに、私はまだ思い出す。


浴びる赤、絶つ感触、埋まる断末魔。殺される時の恐怖、殺す時の覚悟。



走り出す皆に急かされて、私も走り出す。剣を掲げて、相手の腕を切り払った。
後ろから奇声を上げるモンスターが突進してきて、剣が弾かれる。

あの時の、終わる感覚。

リカルドの銃声で助かったことを知る。前に飛込んで来たスパーダとエルマーナの姿は涙で見えなかった。蹲る私の隣にはモンスターの腕が落ちていて、無傷の私を責めた気がした。私が落とした、傷付けた。

アンジュが言葉をかけてくれて、イリアに剣を渡される。そして私はまた飛びかかっていく。何も考えないで。ただ、

殺すために。







「っ……!!」



ベッドの中で体がビクンと震えた。思い出すだけでこんなにも動揺するなんて。
どうしようもなく悲しくて、自分を許せなくて、また泣きそうになった。私は、あんなに。







「名前」



ぽふ、と私の頭に手が乗った。びっくりしたけれど、ここにいるのは私と彼だけ。寝返りを打って、その手の主を見ると優しく笑った。眠そうな顔をして、くしゃりと髪を撫でる。



「馬鹿、…また泣いてんのかよ?」




背中をぐっと引かれて、彼の胸に飛込んだ。優しくされると泣いてしまうのはどうしようもなくて、静かに彼の服に染みを作った。赤子をあやすように背中をゆっくり叩かれて、段々と気分が落ち着いてくる。




旅が終わった後で、ルカに聞いたことを思い出した。


ルカは殺すこと、怖くなかった?


そう聞くとルカは慌てたように物凄く怖かったよ!と帰ってきた。
そしてこう続ける。
でも皆を守りたかったから、仕方ない。

それがルカの答えだった。
私だってそう、皆を守りたかったから。仕方ない、そう言うことは出来ないけど、それでも私は殺したくてやったわけじゃない。それは、言い訳なのか。



「…私…」

「…ん?」

「生きてたかったの…」



死にたくなかった。どうしても。殺すのも怖くて、死ぬのも怖いなんて弱すぎる。でも事実だった。
相手も同じだったはずなのに、何故か戦わなくてはいけなくて、私は彼らを葬った。
申し訳なくて、自分が情けなくて。私の生きたいというワガママで殺してしまうなんて。


耳元で“馬鹿”と音がした。彼の唇から放たれた言葉は私の思考を停止させる。
顔を上げると彼は目を閉じ、呟いた。




「……お前に死なれたら困るだろーが…」



「…!」



何か弾けた。
何か割れた。


そして私は笑った。声を上げて。
涙はボロボロ溢れるけど、笑った。


スパーダは困ったように首を傾げていたが、ただ私を抱き締めていてくれた。





「…私、生きたんだ。」




沢山沢山思い出す。

そうだった、私のために、皆が私が生きることを望んでくれた。
そう、だから私。


生きたいと決めた。







ネガティブガール
(スパーダと、皆のために生きるよ)




………
イマイチ恋愛無しで終了いたしました。
スパーダ書くの久々過ぎた…!

ヒロインはとりあえず優しい子。そして弱い子。
誰かのために自分を犠牲に出来る子。皆のために殺してしまったことすら彼女には苦。

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