「はい、名前、腕見せて?」
「へ?」
アンジュは私に手を差し伸べて、少し厳しい表情でそう言った。
「へ?じゃないわ、酷く打ってたでしょ?」
「あ、アンジュ、見てたの…?」
バレてない、なんてたかをくくっていたのが馬鹿だった。無理矢理に引っ張られると服をめくられ、真っ青になった皮膚が現れる。自分でも見たのは初めてで、びっくりして目を反らした。
「うわ…」
「酷い……もう、こんなになるまで我慢しちゃ駄目じゃない、切り傷も多いし!」
ポワ、とアンジュの手が光に包まれてそっと私の腕に当てられる。ベッドに座らされて、だんだんと痛みがやわらいだ。
「…ごめんね、アンジュ」
「私に謝ってもしょうがない、かな?」
私の腕にだけ視線を送るアンジュはなんだか怒っているようで、隠そうとした罪悪感が私を包む。
理由はわかってた。自分でも凄く愚かなことだと思う。
私がうなだれているとアンジュはそっと微笑んで、捲られていた服を直し始めた。
「…戦うの、辛いんだって?」
「…え…」
アンジュと目があった。なんだか、見透かされたような気がして少し怖かった。
「スパーダ君に言われたの、『名前のこと気をつけといて欲しい』って。」
だから今日の怪我気づけたの、と言いながらアンジュは反対の腕と見比べて腫れの具合を確認する。
「スパーダ、が?」
「あ、勘違いしないでね、私が無理矢理聞いただけだから。
名前、最近寝れてないでしょ?それと関係ありそうだったから、」
ごめんね、と囁くアンジュに首を振った。
本当に隠そうとしたことも、バレてしまっていた。心配させちゃったんだ。
ふっと気が抜けて、頬が緩んだ。
「…何かをね、殺すこと、すっごい怖いんだ。慣れないの、私に復讐しに来る気がして、特に人間を殺した時は転生者でも夢に見ちゃう。」
「…湿原を抜けて、戦場を抜けて……最近は人型の敵が多かったものね。だからスパーダ君も心配してたんだよ。
…辛かったね。」
人間と戦う時、最近ではあの悲惨な夢がフラッシュバックしてしまう。今日はそれが原因でいらない傷をいくつも作った。
アンジュに手を握られて、思わず涙が出そうになった。ぎゅっと目を閉じて、ぶんぶん頭を振る。それと同時にパッとアンジュの手を離して手を後ろに回した。
「だ、ダメダメ!皆には弱いとこ見せないって決めてるんだから、」
「あら、スパーダ君には抱きつくのに、私は手も握らせてくれないの?」
「え、な……アンジュ、見てたの!?」
ふふ、と意味ありげなアンジュに私はもうお手上げだった。あの時はパニックだったから全然わからなかった…スパーダは気づいていたのだろうか。腕の治療も終わりめくった袖を元に戻しながら、アンジュは笑っていた。
「もっと、頼ってくれていいんだよ?」
「ありがと、でも大丈夫。怖いけど、頑張らなくちゃいけないから。
…スパーダにも迷惑かけてられないしね。」
アンジュに、というより自分に言い聞かせるようにそう言った。
頑張らなくちゃ、きっと、もうすぐ戦いがない日々が待ってる。
「スパーダ君のこと、好きなのね、」
「好きっていうか…特別…大切、かな、スパーダの隣にいたら弱くなっても強く戻れる気がするの。」
「それって好きってことでしょ?」
「…かもね。」
二人で笑い合って、泣きそうだったことも吹っ飛んだ。
後で会ったら、スパーダにもお礼を言わなくちゃ。迷惑ばかりかけてるけれど、いつか何かを返すから。
だから今は、私が戦えるように、頼らせてください。
「スパーダ、聞いた、今の?
どうするの、名前、スパーダのこと」
「るせーって!!ルカ、変なこと言ったらぶっ飛ばすからな!!!」
聞こえないように声のトーンを出来るだけ落としてそういうが、ルカは初めて見る楽
しい現実を前にして笑みが止まらなかった。
スパーダはと言えば想いはたった一つ。
どうするの、なんて
「…嬉しくて死にそうだ、ばーか。」
ネガティブガール
(アンジュ、ありがとね)
(早く、終わらせよ?)
(…うん、)