少女は今日も想い、悩む。








今日ルカに言われた。“今ので戦闘1000回だ”と。
…大体一回戦闘するにつき二〜三体ほどのモンスターと出会う。時々群れなんかに遭
遇したりもするから今まで出会ったモンスターが約3000匹、私達の中ではアンジュは
ほとんどモンスターに止めを刺すことはないから除外することにして、六で割ると約
500匹。
それが私が奪った命の数だ。多い、思っていたより、遥かに。




「私達の方がよっぽど悪質だと思わない?」


「…お前またそんなこと言ってんのか?」


私の隣にはスパーダ。せっかく宿屋に泊まっているのに、あの夜から不眠症気味の私
に付き合って外で夜風に当たってくれていた。暇なんだ、と言っていたけれど明らか
に眠そうで早目に切り上げてやろうと心で思った。



「だって500匹だよ?人間にしたら大事件。」


「向かってくるんだから仕方なくねぇか?やらなきゃやられるってことくらいわかん
だろ?」


「わかるよ、だから昼間はちゃんと戦ってるじゃない。」



わざとらしく頬を膨らますと軽く頬をつねられた。

私は昼間は普通だ。でもふとした時にこの想いが止められない。悲しいような悔しい
ような、取り返しのつかない間違いを犯してしまったみたいな私を、私が許せない。
その瞬間が、いつも夜。貴方の、隣。






「シアンとか、ハスタとかみたいにやられたら帰ってくれればいいのに。」


「そりゃモンスターには無理だろ。」


「…だよね。」



ふと空を見上げると月が綺麗に見えた。
私達の殺したモンスターや人達がああいう所に行ければいいと思う。そして、出来るなら幸せに。…なんて、殺した私が願うことじゃないか。でも願えるなら、願いたい。



「お前、それ他の奴らに聞いてみたわけ?」


「ううん。でも言わない。内緒にしとかないと、普段も考えちゃいそうだし。」


「まぁリカルドなんかに言った日には…」


「怒られちゃうよ。“敵に情けをかけるな!”ってね。」



我ながらいい判断だと思う。皆と戦ってる時に躊躇いなんてあっちゃいけない。“いく時はいく”大切なことだ。
躊躇いがあれば隙が生まれ、隙があれば怪我が生まれる。怪我をするのは私じゃなくて皺寄せが誰かに行くことだってある。それは避けたい。



「だから迷うのは今だけ、明日敵が可哀想だと思っても躊躇わない。」


「お前、…偉いんだか偉くないんだかわかんねぇな。」


「スパーダお坊ちゃまよりは、格下でございますよ?」


「…馬鹿。」



二人で声を上げて笑って、そしてスパーダが隣で大きく欠伸をした。すると私もなんだか眠くなってきたような気がする。それに気付いてかどうかはわからないけれど寝るか、と言われて、うん、と頷くとスパーダに手を差し出された。


目を擦り擦り、皆が寝ているであろう部屋まで意識曖昧なまま廊下を歩いて、ふと気付く。




(…あ、私、スパーダと手繋いでる。)




じゃあな、と部屋の前で別れてなんとなくさっきまで彼と繋がっていた手を見つめ
た。









また、話聞いてもらおう。ネガティブガール
(昼間だったら、きっと恥ずかしくてできなかったのに)
(あぶなっかしくて見てらんねぇよ、馬鹿)




―――――
偽スパーダ。恋愛にもつれこめない。




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