毎日の戦闘の疲労はほぼピークに達していた。
肉体的にも、精神的にも剣を持ち戦う自分にとって戦いは耐えがたいもの。モンスターといえど肉を切り、骨や内臓を断てば悲痛な叫びを上げる。時には同じ人間相手に剣を振るう時だってあるのだ、肉体より精神がやられているのは前々からわかっていた。それでも“やらなきゃやられる”“やられるのは嫌だ”そんな想いが私を戦闘へと駆り立てていた。
そしてやっと迎えた夜。なんとも運の悪いことにこんな時に限って見張り、だなんて。
「大変だな」
「そういうなら変わってよ、私疲れた。」
「残念、俺も疲れたの。」
火の前で体育座りの私を嘲笑うかのように淡緑色の髪をした少年はそういって隣に寝転がった。ポフ、と音を立てて彼のキャスケットを顔の前まで降ろしてやると、それを直しながら彼は私を見上げた。
「だったらアンジュかリカルドに変わって貰えよ、申し出られてたじゃねぇか。」
「だーめ。
アンジュもリカルドさんも疲れてるし、毎日任せられないよ。明日は町に着くだろうから、今日は頑張る。」
「…ご苦労なこった。」
パチパチ燃える焚き火に木を投げ込んで、大きくため息。眠いし、疲れているけれど、こんな気分で寝たら嫌な夢を見そうだ。
そう、例えば今まで殺した人達の、夢、とか。
「スパーダは」
「ぁ?」
「戦う時、なに、考えてる?」
私がそう発すると仰向けになって、彼は眠たそうな目でこちらを見た。しかし、煩わしそうにはしないで、少し考えた風にするとそっと目を閉じた。
「…どういう風にしたら相手が倒れる、多分あいつはこれに弱そうだな、とか?」
「他には?」
「…今の技はよく決まったな、とか。」
私は思わず笑ってしまった。スパーダはムッとして、手に持っていたキャスケットで私の頬をはたいた。
「じゃあお前、どんなこと考えてんだよ?」
「私?
…このモンスターはさっきのモンスター殺されたから怒ったのかな、とかここで倒されたらきっと餌になるんだろうな、…とか…?」
「お前…ルカ以上のネガティブじゃん…、」
明らかに呆れた風にスパーダは呟いて、よくそれで戦ってきたな、と続けた。私だってそう思う、なんで武器に剣を取ってしまったのか。イリアみたいに銃だとか、もっと原始的に弓なんかを扱えば敵の死にあまり触れずにすんだのかもしれない。自分があまり生き物の生死に強くないことくらいわかっていたはずなのに。
「辛くねぇ?」
「辛いよ、かなり。スパーダ辛くないの?」
「…お前ほどじゃねぇな、考え方の違いだろうけど。前世俺、剣だし。」
「そう、だね…」
戦いを始めてもう数週間が経過している。未だに慣れることのない、この苦痛とまだ、私は戦わなければならなかった。
「…ごめんね、寝ていいよ。」
「…ああ。」
どうしろってんだネガティブガール
(なんの解決にもならなかった、今日は寝ないで過ごそう)
(それはお前が優しすぎるだけなんだって、言って解決にならないのは見えてた)