「いやぁ…悪いね、さすがに利き手に包帯を巻くのは骨が折れるから助かったよ。」


「大丈夫ですか?まったく、今回の原因は?」


白い包帯を右手に巻くこの人の体から生傷が消えたことはない。虐待やイジメなんじゃないかと心配して他の先輩に尋ねたこともあったが、少しこの人と一緒に行動すれば理由はわかる。類い希なる運のなさ、そしてそれを防ごうとしない天然さ。

善法寺伊作先輩。
将来は医者になりたいらしいが、後輩の俺としては彼の将来の体の方が心配なのが本音だった。


「うーん……なんか、気が付いたら…」


「はぁ…気をつけてくださいよ。先輩、これじゃ体が持たないですよ。」


「…ごめん、久々知君。でも同じサークル内に包帯を巻ける人がいて助かったな。ありがとう。」


「だからって、怪我しないでください。」


苦笑いしながら俺の手当てを受ける伊作先輩はどこか頼りない。しかし、彼が誰かを手当てするときの手際や指示は本当に的確だし、その時だけはこのいつも浮かべている笑みも消える。
俺が少し手当て出来るのは親が医者であることと、昔入っていた少年野球チームで学んだという理由だけだ。
伊作先輩は頼りないながらも、実は尊敬できる点は多い。



「はい、これで大丈夫ですか?」


「わぁ、うまいよ。ありがとう」


「いえ、じゃあ俺はこれで」


「あ、ちょっと待って!」


立ち上がろうとしたところを呼び止められ、動きを止めた。伊作先輩はあまり見たことのない笑みを浮かべて、実は…と切り出した。















一方、名前のクラスでは女子が数人集まり、名前を囲んでいた。


「ふぇ!?合コン??」


「そうよ!名前、あんたどんだけ彼氏いないの?」


「えっと…、…」


中心にいた女性が頭を抑え、名前を見つめる。周りの女の子からも驚きの声が上がった。
彼女はぐっと名前の眉間に指を当て、


「名前、大学は出会いよ!と、いうわけで親いサークル内の男どもでセッティングしたあげたんだから、いってらっしゃい!」


「ゆ、結ちゃん…マジで言ってるの?」


「もちろん。今週末だから、それまでに用意しときなさい。」



結ちゃん、と呼ばれた彼女は名前にニコリと微笑んでみせると踵を返して教室を出ていってしまった。


「結も名前のこと思って、だよ」


「うん…」


周りの子が言う慰めになんとなく頷いて、名前は手帳に仕方なしに予定を書き込んだ。合コンとかが嫌いなわけではなかったが、あまり好き好んでしたいとは思わなかった。



「勘弁してー…」




日常のヒトコマ





(なんてことない、イベントなんだけれどね。)





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