くるくる回る意識。
寝ているのか、死んでいるのかわからない。透明な意識が、いろんな場所へ飛んでいく気がする。
そんな中、私は向こうに見えた彼の背中を呼んだんだ。
「兵助ー!!」
声はちゃんと出る。
届いた声に反応して兵助が振り返って手を振った。私もすぐに手を振り返して、彼の元に走った。
「へい、すけ……兵助!!」
「どうしたんだよ、名前。そんな慌てなくたって私は逃げないって」
「…え…?」
「今日はもう授業も実習もないし。あ、でもちょっと火薬庫だけ見に行きたいんだけど…」
青い忍の制服。兵助ははにかんで笑って、私の頭をポンポンと叩いた。
安心する。
この笑顔が大好きだった、それだけは忘れない。
「あ…そう、だよね…」
「今日の実習、うまくできたのか?」
「えと、あ…うん!本当に大成功だったの、聞いて、兵助に教わった通り投げたら、ちゃんと手裏剣が飛んでね!」
「そうか、なら良かった。」
手を取られて、私も握り返した。
いつものように手を繋いで学園を歩く私達は幸せを振り撒いている気がする。自分たちが幸せだとなにをしていても良い気がするのは何故だろう。
きっと昔の私なら恥ずかしくてこんなこと出来なかったと思うのに。
「…お前達本当に仲良いなぁ」
「あ、三郎、雷蔵」
「…なんで二人が火薬庫の前にいるんだよ!」
あからさまに嫌な顔をする兵助に三郎は雷蔵を盾にしながら舌を出した。
私と雷蔵は顔を見合わせて苦笑い。
「私も名前と遊びに来たんだ!」
「嘘つけ。邪魔しに来ただけだろ!」
「失礼だな、名前がお前に汚されないように見張っているんだ。」
「こらこら三郎、名前も困ってるから退散しよう。」
本当はたまたま居合わせただけなんだよ、と雷蔵は耳打ちしてくれた。
でも私は知っているの。
二人が私なんかじゃなくて、兵助に会いに来ていること。
私が考えている以上に男同士の友情ってのは強く、壊れにくいもので、素敵なものだ。
「ごめんな、あいつらも名前気に入ってるから」
「ううん、ほら早く用事すまそうよ」
兵助にはそれがたくさんあるし、これからも大切にしてほしいと思う。
去っていった二人の背中を見つめながら、火薬庫に入る。
外から用具委員の食満先輩や、その後輩たちの声なんかがして、優しい気持ちになる。
ゆっくり一つ一つ棚を確認していく兵助を後ろから眺めて、いつもこうしていた。
そうだった。
私はこうして皆の声を聞きながら、兵助といるのが好きだった。
「名前、終わったよ。」
兵助はそう笑って、振り返るとそっと私に口付ける。
私もつられて笑う。
―――――――幸せ。
そこで、静かにホワイトアウトしていく視界。
目を開けると、そこは。
「…なによ…いまの、ゆめ…」
幸せセピア
(曖昧な記憶にと、変わってしまうけれど)