「名前、おはよ!」
「あ、おはよー」
「苗字、昨日言ったプリント出来たから持ってくな!」
「あ、ありがと!」
教室に入ってくるだけで数人から声をかけられ、それに返答する。
俺だったら朝から勘弁してくれと思うけれど彼女はそんな風に思ってはいないんだろう。
静かだった教室が急に活気に満ちた気がして、彼女の存在の大きさを知る。
着いてから数分後、ようやく席に座った彼女は俺を振り返って目の前で手を振った。
「ハチ、おはよ!」
「おーおはよう。」
「まーた眠いの?ちゃんと寝ないと駄目だよ。」
ぺし、と鞄から出したお菓子の箱で俺の頭を叩くと自分はそれを開けて食べ始めた。
朝から元気な奴だ。
「あぁ…昨日は兵助の家で飲んでたから…」
「兵助……って確か久々知君…だったっけ?」
「おー覚えたか」
「そりゃそうだよ!ハチも三郎もやけに久々知君の話するんだもん。」
ニコリ、と笑って彼女は前を向いてしまった。
高校に入って、初めて俺達は再会した。
再会、って行ってももちろんはじめましてから始まる関係のはずなんだけど、俺は奴らを知っていた。幼い頃からなんとなく知っている世界があって、人達がいて、でも夢かなにかだって思っていた。
でも会った瞬間に全て思い出した。全てって言っても断片的な、それでいて鮮明な記憶。
大学に入った今、もう俺達はかつてと同じような友情を築いた。確認したことはないけど、多分三郎も覚えている思う。他の皆は覚えていないのか、覚えていない振りなのかわからないけれど。
前世の記憶なんてくだらないと最初は思ったけど、皆があの頃と同じ過ぎて疑うことすらくだらないと感じてしまうくらいになった。
やっぱりきっと俺はあの頃の俺で、皆もあの頃の皆なんだと思う。
でも、知っているからこそ。
「名前ー、今度名前も来ない?兵助んち。」
「えーでも私久々知君と接点無いしなー。」
「まぁ、そうだろうけど」
「あ、今のうちにトイレ行っとこ!」
逃げるように席を立つ名前を見て、俺はため息をつく。
(なんであいつは覚えてねぇんだろ)
せっかくこうしてまた同じように生きられているのに、と考えずにはいられない。
「…あんなに好きだったのにねぇ」
横から三郎の声がして、やっぱりか、と俺達は笑った。
ない、記憶
(俺達は再会した。平成という世界で。)