確かに俺に彼女はいなかった。
さすがに二十年生きてきて一人もいなかったわけじゃなくて、中学で一人、高校で三人くらいと付き合ったことはある。
中学での付き合いなんてただの怖いもの見たさというか、好奇心くらいなものでただ手を繋いで帰った程度のもんだった。
高校ではまぁ周りも付き合ったり別れたりが多くなって、それに便乗した感じ。俺は中学までは野球部だったから運動はそれなりにできたし、勉強も自分で言うのもなんだがそこそこにできる。
大変失礼な言い方だが、それだけで女は寄ってきた。告白されたこともあるし、調子に乗って告白したこともある。
でも本当に彼女らが好きだったのか、と聞かれると頷けない。だって俺は付き合っていたはずの彼女らの誕生日も好きなものもほとんど覚えていないからだ。ぶっちゃけ顔も曖昧だし、もらったプレゼントでさえ捨ててしまっている。
それに気付いて、大学に入る前に全てすっぱり切った。
彼女を好きなフリはやけにうまかったらしくて、仲間達は驚いていたけどそんなの関係ない。
俺には雷蔵みたいに小学校からの幼なじみを愛し続けることも、三郎みたいに何十人の女と遊び回ることも、ハチみたいに彼女を作るために頑張る姿勢もできやしない。これだけだとあいつらをばかにしてるみたいだが、そうじゃない。
俺も誰かを愛する努力がしたいと、思ってはいたんだ。
一応先輩命令的な感じで参加することになった合コンと言う名の飲み会だったが、俺はなんの期待もしてなかった。でももしかしたら何かあるかも、というほんの僅かな希望があるせいで断ることすら出来なかった。
「久々知くん、野菜取ったあげよっか?」
「お酒、ついであげるねー」
そんな女の子達の当たり前になりつつある気配りになんとなく笑って答えて、彼女達を褒めてあげていると携帯番号を交換させられた。
面倒、という気持ちを抑えて笑顔で交換してやると彼女達はまた別の男に優しさを振り撒き始めた。
(凄い…よな、ある意味…)
彼女達の本能的ともいえる逞しさに俺は多少尊敬の眼差しを注いだ。
あまり酒の気分でもなく、俺は水のコップを片手になんとなくもう第三者になった気分でそれを見つめていた。
いつも男同士では偉そうなこと言ってる友達も、女の前では表情が崩れている。
面白い。
そんな失礼なことを考え、俺は冷奴をつつきながら、ふと隣のテーブルを見た。
(……あ、れ……)
ガタン、と音を立てて椅子が倒れて初めて自分が立ち上がったことを知った。
「久々知、どした?」
「あ…わるい」
皆騒いでいるので気にならなかったが、隣の奴にそう言われてすぐに椅子を戻して笑っておいた。
隣のテーブルに座る一人の女の子。
他の子のように媚を売る素振りは無く、俺と同じようにもう水を手にしていた。
容姿、雰囲気、仕草。
どこかから止められない疼きがきた。
隣には誰もいないし、今は女の子と話しているだけだ。…今しかない。
気がつくと、俺はコップだけを手に持ち彼女の元へ向かっていた。
「…ねぇ、名前は?」
「え?」
確かにそこにいた
(二人の出会いが何をもたらすのか、まだ俺は知らない)