会議が終わったらお片付け。本当なら机の上と椅子を綺麗に揃えるくらいでいいはずなのに、あれだけ暴れていたのだからそうはいかない。
特に会議中に喧嘩し出した二人、あと途中ハンバーガーを食べていた青年の辺りは床まで汚れている。まぁ今回は何か壊されなかっただけましかもしれない。
「名前ー!!」
私しかいない会議室に入って来たのはフェリシアーノ。男の子なのにかわいらしい見た目をしていて、彼と一緒にいるだけで柔らかい気持ちになる。
カップをトレーに重ねながら、軽く左手を振った。
「フェリシアーノさん、どうかしました?」
「もうやめてよー。名前がそうやって話すの怖いよぉ」
「でも、お仕事中ですから。」
「うーやだぁー」
泣き虫の彼の早泣き技は大したもので、だだをこねる子供のようにぶんぶんと首を振れば、本当に涙が瞳に浮かぶ。
その姿すら可愛くて、思わず頬が緩んでしまう。ずいぶん立派になった大人の男性には、失礼だけれど。
「ふふ…わかったよ、フェリ君。」
「ヴェー、いつもの名前だぁ!俺、フェリシアーノさんなんて呼ばれると鳥肌立つよー」
「しょうがないでしょう?仕事中はそう呼ぶって決めてるんだから。」
私のことをまだお話していなかった。
私はこの個性溢れる国達のお手伝いさんだ。主なお仕事は皆のお世話、話し相手、大きな集まりの時は会議室の掃除や管理。
暇な時はいろんな国に行ってただただお話を聞いたり、観光したりもする。自由気ままな、メイドさんだ。
ずっと昔から、こうやって皆の側に存在している。
「フェリ君、帰らなくていいの?」
「いいよー。ルートまだ菊と話してるし、名前といるよ。」
フェリ君は私と同じようにカップを集めて、トレーに置いてくれる。全てのカップを集め終わって流しに持っていくと、ようやく会議室の片付けが終了した。
「手伝ってくれてありがとう、フェリ君。今日は人数多いから助かっちゃった」
「いいよー、名前いつも一人で大変そうだし。」
「ふふ、昔もフェリ君はこうして手伝ってくれたね。」
「だって俺、昔から名前のこと大好きだもん!」
「まぁ」
ふわふわしたこの空気はとても居心地がいい。まるで小さな女の子と一緒にいる気分になるのは、幼い頃の彼を知っているからだろう。
昔は私の膝くらいまでしかなかった背も、いつのまにか追い越されてしまっている。それでもこの温かい雰囲気は変わらない。
「名前、今度俺んちにおいでよー」
「うん、時間が出来たら必ずね。またフェリ君のパスタが食べたい。」
「うんっ、絶対だよ?約束ね?」
「もちろん」
変化無き幸せ
(ルートと菊も呼ばなきゃー)
(うん、皆で食べようね)