「手当てしろ」
「…今日も偉そうね、魔導師さん」
わたしの家には深夜、窓からの訪問者がある。
それは三日続けてやってきたり、ぱったりこなくなってみたり、そう思ったら一か月ぶりに来てみたり。とても自由気ままで自分勝手。
留守の時だって、そうじゃなくたって、もちろん開けていないときは窓は施錠してある。どういうわけか、訪問者さんはこれを壊さずに開けてしまうのだ。
「…これ、魔導で?」
「知るか」
「状況がわからないと治療のしようがないんだけど」
「は、やぶ医者か」
「…アナタね」
腕には痛々しい傷。刃物ではなくて、恐らくは魔導によってやられたもの。
銀髪碧眼の魔導師さんはいつも怪我を負ってわたしの所へやってくる。
「いってぇ!」
「男でしょ、我慢」
「っ…」
「はい、これで平気よ」
わたしの職業は医者だ。と言ってもまだまだ見習いで技術も経験も浅い。
彼は今日は腕の怪我だけだったけれど、時々わたしでは手に負えないくらいの怪我をしてくることがある。それでもわたしは他の医者を呼んだことはない。
わたしは彼がヒーリングの魔導を使えることを、知っている。
わたしの治療など必要ないことを、知っているのだ。
「ガーゼは朝晩変えてね、膿んじゃったら大変だから」
「お前がやれ」
「って言ったって魔導師さん毎日なんてこないじゃない」
次いつくるかなんてわからない。
彼がどこに住んでいるのか、何をしているのか、何故怪我をしてくるのか。わたしは彼のことなんて知らない。
彼は、魔導師だ。あまりわたしには魔力はないけれど、きっととても強い力を持った人。
あと、とてもわがままで、偉そうで、自分勝手。外見はとても綺麗で、寝顔は可愛らしい。
そんな上辺ばかりの事しかしらない。
「今日は、もう行く」
「そう、わかった。また怪我しないようにね」
「約束は出来ないな」
「じゃあ大怪我しないように」
「努力は、する」
窓からやってきた魔導師さんは、やっぱり窓から帰っていく。わたしの家は一階建て。いつか彼は扉からわたしの家に来てくれるのだろうか。
マントを翻して、こちらを振り返った。
蒼い瞳がわたしの視線を離さない。
「またな、名前」
その言葉があるから、明日も私は夜を待つ。
夜を待つ