わたしは生まれた時からずっと閻魔と一緒にいることを知っていた。

忘れて、新しい人生を始めるはずだったであろうわたしは、残念ながら前世を続行している。
もちろん名前は変わった。生まれた国も、場所も、両親も。昔のわたしのことを覚えているわけじゃない。
でも、確かにわたしは苗字名前のままなのだ。


初めて自覚したのは幼稚園の頃だ。
母親には見えない彼の姿を見ることが出来た。多分それは幼い子供に良くある、霊を見る、という感覚に近いモノだったけれど生まれる前から知っているその姿にひどく安心したのを覚えている。
黒い髪に赤い瞳。見覚えのある大王と書かれた間抜けな帽子。
あぁ、閻魔は側にいるんだって、わたしはすぐに理解した。
閻魔の姿はその時くらいしか見えていない。でも今大人になったわたしを、まだ閻魔は離さない。


「閻魔、そこにいるんでしょう?」


勘違いだと決めつけて、忘れてしまうことは出来なかった。
一人寂しい時はいつだって彼を呼んだ。
答えはいつまでも返ってこない。返って来たことなんてない。

でもなんとなく感じられるのだ。
背中を包むひかりのようなもの。
ここにいるよ、大丈夫だよ、と確かに。
いつだって閻魔はわたしを独りにしないとわかっているから、怖くなんてない。




わたしは大人になっても恋をしなかった。
わたしはずっと閻魔を愛していた。その存在がとても愛しかった、閻魔大王として、私に寄り添ってくれる一人の異性として。
他の人なんて好きになれなかった。
彼らはただの人間、閻魔大王と比べたらとてもちっぽけで、魅力なんてどこにも見当たらない。
わたしは、閻魔を忘れられなかった。



(名前、こっちに戻っておいで)



そう言ってくれさえすれば、わたしは躊躇することなく貴方の元へ行くのに閻魔はそうも言ってくれなかった。

姿も、声も、わたしには何も届かないのに彼は確かにわたしを見ている。



今日も、確かにあなたはわたしを見ている。



彼方視線

(こんなことなら、全て)

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