日が落ちて、まもなく夕食になろうかという頃、青い髪をした少女が屋敷を出ていくのが見えた。

すらりとした手足を揺らして、何度か寂しそうにこちらを振り返って。見送る者を視界に入れては少し頬を染めて、軽く頭を下げる。少女、とはもう形容出来ないくらいに、彼女は美しくなった。
美女。その言葉は彼女の、ルルーのためにあるような気さえする。遠い窓から見える彼女ですら、気品に満ちているのだから、近くで見れば更に彼女は輝いているのだろう。でもそのルルーを、夕食にも誘わずに帰すのが、この屋敷の主だ。

窓からルルーが見えなくなったのを確認して、私は部屋を出る。
長い長い廊下を歩いて、更に長くて大きい階段を降りていくと、見えた。主だ。

「サタン」
「名前か、待たせた」

緑色の長い髪、生える角、高い背、赤い瞳、憎たらしくも整った顔立ち。
彼が近付いてきて、私はあと一段のところで階段を降りるのをやめる。同じ目線、とはならない。でも確かに近付いた。

「またルルー帰っちゃったの?」
「ん?ああ、帰ったのではない、帰したんだ。」
「あんなに美人なのに、勿体ないわ。私だったら絶対に帰さないのに。」
「お前はあいつがお気に入りだな」
「だってあんな子あまりいないでしょう?強くて、美しくて、なんて」


腕が伸びてきて、彼の細い指が私の頬を滑る。少しくすぐったくて顔をそらすと、サタンは満足そうにこちらを見る。
私は安心している。
ルルーがここにいないことに。
彼の瞳に、私が写っていることに。


「あの子も可愛いわ、あの、サタンが気に入ってる子。…アルルだったかしら?」
「ああ、アルルか」
「いつも元気で、笑顔で、妹にしたいくらいよ」
「なら外に出ればいい。アルルならよくその辺りを歩いているぞ?」

ふふ、と最後に笑いを込めるのが、サタンらしい。

「…失礼しちゃう。私が全く外に出ないひきこもりみたいじゃない。」
「それはすまない」
「私、シェゾが来たらお茶くらいするし、月に一回くらいはウィッチの所だって行くわ。」
「絶対に二人がいない真夜中に、だろう?」

彼は私をよく知っている。


「あの二人が好きなら、会ってみればいい。トモダチ、とやらになればいいじゃないか。」
「サタン、意地が悪い」
「そうか?」
「そうよ」
「では教えてくれ、なぜ会わない?」
「知ってるくせに」
「お前の言葉で聞きたいんだ」


そう耳元で囁かれた。
ずるい、ずるいわ、サタン。
強くて美人なルルーも、明るくて可愛いアルルーも、前から友達になりたいって思ってる。
だけどルルーはあなたが好きで、あなたはアルルを求めてる。

そんな二人の、近くにいたら




「…耐えられなくて殺しちゃうわ」



頑張って、我慢するの。
本当は私だけのあなたにしてしまいたいけれど、私は我慢するの。
貴方がそんな私を見ているのが好きなこと、わかっているからよ。





(そうか、と笑ったサタンの唇は、とても甘い)

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