※学ヘタ








「なぁ、名前」


男にしては少し高い声が響いた。

今忙しいんだけど、なんて言えるわけがない。まとめていた書類から目を離して立ち上がると、目の端に三時を示す時計が目に入った。
あぁ、また紅茶か。さっきいれたばかりのような気がするが、あの男は大の紅茶好きだから一日私の倍は軽く飲む。
ミルクも砂糖も使うから、すぐなくなるんだよね。こういうとこの経費削減した方がいいんじゃないのって、今度会議で絶対言ってやろう。


「なんですか?」


相も変わらず私は可愛くない対応しか出来ない奴だと思う。ここでにこやかに笑って、紅茶ですよね?とか言えたらかなり点数が高い女子だろう。私には無理すぎる。
もちろんこいつから評価が高くたって意味ないんだけどね!


この生徒会室の長であり、この学校の頂点に立つ男。アーサー・カークランド。
運動神経は抜群、成績も学年トップ、金髪翠眼のいわゆるイケメンだ。
こんな奴が女子から人気がないわけがなく、一年目で学園の人気をかっさらい、難なく生徒会長に就任した。私としちゃあこんな俺様ヘタレのどこがいいのよって感じで、特にバレンタインの時なんかイライラしっぱなしだった。袋一杯にチョコレート貰っているくせに、帰り際にお前はくれないのか?と私にチョコを要求してきた。なんだ嫌みかこのやろうという想いを込めて、義理チョコを投げつけてやった。律儀にチョコを拾うアーサーに更にイライラしたものだ。


私がアーサーに尋ねながらも自分のカップから紅茶を飲み干し、お湯を沸かそうと身を翻すと、あ、いや…と呻くようなアーサーの声がした。



「なに?」


「紅茶じゃない、話があるだけだ」


先に言えよ、紅茶無理に飲んじゃったよ。とは言わないが、軽くため息をついて持っていたカップを机に置き直した。
生徒会長の大きな机の前にあるソファー。特に近くに行かなくてもアーサーの声は聞こえるが、とりあえず立場上机の前に立つ。


私が生徒会に入ったのは中学から生徒会だったから、という理由だけだ。部活も特にやりたいものはないし、だからといってなにもしないのもなんだし。そんな曖昧な理由ではあるけれど、今は入って良かったと思える。学校のために何かするというのは思っていたよりずっと充実しているし、企画して、実行して生徒の皆が泣いたり笑ったりしてくれただけで嬉しくなる。それに今期になってからは様々なイベントは生徒から大反響だ。アーサーは持ち前の頭と要領の良さでイベントの企画、スケジュール、実行まで完璧にこなした。彼が皆を引っ張るから、私達も色々なアイデアを出すし、生徒の皆もそれを一生懸命に楽しんでくれているのだ。
そういう所は、確かに尊敬してる。

でも!
私は知ってる、アーサーがそんな完璧な人間じゃないってこと。
無駄にカッコつけてるし、ちょっと馬鹿にされると泣きそうになる。家庭科の調理実習で作ったクッキーが恐ろしいほど焦げて、私に泣きついてきたこともあった。(あれはあまりにも不味くて捨てた)
フランシスから借りたエロ本を生徒会室でかなり真剣に読んでたことだって知ってる。
それに、意地を張って、素直になれなくて、一人で作業を抱え込んでしまうことがまだ少なくない。だから今日も私がそれを手伝ってる。


アーサーは皆が思ってるようなカッコいい奴なんかじゃないのよって、言いふらしてやりたい。
本当は彼はダメダメなんだから、よく見なさいよって。



「あの、あの…だな…」


私ではなく机に向かってぶつぶつ言ってるアーサー。またお得意の妖精さんかな、と思っているとそうではないらしい。


「あの、名前、おれ、おれな!!」


座っていた彼がいきなり立ち上がり、ぐんと視線が上がる。見下ろしていたアーサーに見下ろされる。

口をパクパクさせて、金魚みたいだ。なんなのよ、と呆れた表情をしてやると、うっすら瞳に涙が溜まる。
ほぉら、また泣くよ。人前では絶対に泣かないくせに私の前ではよく泣く。本当にアーサーはどうしようもな



「名前が…っ…好きなんだ!!」


「……っええ!?」





そう言うことなら話は別!

(私しか知らないアーサーが好きなの!)


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