そのいち。


始まりはゆっくりと。










「えーそんなのはいやよ、こっちの色のが可愛いわ。」


「そぉかぁ?お前の可愛いの基準がわっかんね。」


「駄目ね、スパーダ。女の子は皆ピンクが好きだと思っている人の発言だわ。」


「へっ悪かったな、じゃあどれにすんだよ?」


「もうっ、どうせ暇なんだしゆっくり選ばせて頂戴よ。」


まだ先日開店したばかりの小さな小さな雑貨屋。
場所は路地裏に近いし、周りはお世辞にも綺麗とはいえないけれどせめて店内だけはとデザインにはこだわったつもりだ。商品の位置、ライトの種類、アロマ、音楽。雑貨屋だけれど少しでも心地好くなってほしいと願いを込めた。



そんな私の店にやってきたカップルが一組。
珍しい翠色の髪の青年と、栗色の髪の少女。


(明らかに貴族…かしら、男性の方はずいぶん態度わるいけど)


「お、なんかサボテンとかあるぜ」


「わぁ…このバッグ手作りなのね。素敵だわ」


「…聞いてねーし」


「聞いているわ、見せて?」


お嬢様らしい話し方をするものの、見せる笑顔は普通の少女そのもの。私の選び、作ったもの達をキラキラとした瞳で見る彼女は私から見てもかわいらしい。
身に付けているものもやはりどこか高価そうだけれど、店の安い商品を丁寧に見てくれていた。


「あら…これ、オルゴール…?」


「へぇ…珍しいな、最近見ねぇな。」


「スパーダ、こんなのが屋敷にあったらいいと思いません?」


「俺家かえんねーし。お前が欲しいなら買ってやろうか?」



(…幸せそうねぇ…羨ましい限りだわ)



私が店を開いたのはこんな風景を見たかったからかな、と自分の中でも納得した。



「あの、すみません」


ふと気付くと少女が私の前に立っていた。慌てて笑顔をつくり、そちらに向き直ると彼女は店内で流れているオルゴールを差し出した。


「こちらの曲は、なんという曲なのですか?」


「え……あ、ごめんなさい、これは私の作った曲なんです。父がオルゴールを作っていて、記念にと店内用にいくつか作ってもらっただけで。」


「まぁ、お父様が?」


二人は顔を見合わせて、ニコリと微笑んだ。
それはそれはみとれてしまうほど幸せそうに。



「素敵な曲ですね、とても気に入りましたわ。スパーダもそう思うでしょう?」


「でもせっかくこいつの親父さんが作ったんだ。貰うわけにはいかねーだろ」


「もちろんです。じゃあスパーダ、それを。」



青年が持っていたサボテンを差し出して、頂けますか、と微笑んだ。
私も釣られて笑って、サボテンを綺麗に包装した。


(あ、たしか…)


ふと引き出しを開き、先ほどのものより小さなオルゴールを取り出してそっと袋に入れた。
ふと顔を上げると青年だけは気付いたようで、私が頷くと唇だけでありがとな、と囁いた。



(数はあまりないけれど、そう言ってくれる人のために作った曲だもの)




「ありがとうございました、」


「いえ、こちらこそありがとう」


「名前、貸せよ。持ってやる」


「また、いらしてください」






ただそれだけ、本当にそれだけの出会い。
路地裏の雑貨屋で出会った、幸せそうに笑う二人のこと







結婚行進曲






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