「…拝啓、季節も春の…いやいや、こんな固いのは無いだろ。
…突然のお手紙失礼いたし、いや突然手紙なんてごめん、いきなり手紙を書くなんてびっくりすると思う、
…。
手紙なんて初めてだから……



…だぁあああ!!」


「ぎゃあああああ!!!」


「うわぁあああ!!!」



ファブレの屋敷に三つ(といっても二つは同じ主)の激震という名の叫びが走った。
俺が振り返って見ればドアの間に挟まって、腰を抜かすメイドの名前・苗字。
しかも声で聞こえなかったがコーヒーを引っくり返したらしく、床を濡らしていた。

呆気に取られているとドドドド…と音を立てて、外から


「大丈夫ですか、ルーク坊ちゃま!!」


「名前、貴方何をしたの!!」

と怒鳴りにも似た声がした。



「だ、大丈夫です、問題ありません。」



溢れたコーヒーを上手く自分の体で隠して、名前はそう言った。
一体どこらへんが大丈夫なのかわからないが、彼女があまりに必死にそう言うので俺も頷いてやった。



持ち場に戻る使用人達を見送って、名前はいそいそと扉を閉めた。



「…突然大声出すなんて、びっくりするじゃないですか!」


「な、お前だって叫んだだろ!!こっちだってびびったっての!」


「あーあ…コーヒーが…。」


ミルクも溢れていて、床はなんだかちょっとだけ綺麗だ。そんなことを彼女が思うわけもなく名前は雑巾でそこをせっせと拭き始める。
一応手伝おうかと思ったがやめた。(前に手伝ったら範囲広がったし)
とりあえず机に広がっていたペンを片付けて、くちゃくちゃに丸められた便箋をゴミ箱に押し込む。
今日中に書いてしまいたかったが、仕方ない。
この名前が俺の手紙を出す相手、なのだから。




「…お手紙…、書いてたんですか?」


「ん?まぁな…」


「ああ、えと…ティアさん?それともガイですか?ルーク様戻られてからずいぶん経ちますもんね。」


「いや、またそれとは別。」


そうなんですか、と少し不思議そうに俺を見つめながらもせっせと床を掃除する名前。
やっと全て拭き取り終り、割れることなく済んだ空のカップをトレーに乗せた。ちょっと部屋がコーヒー臭くなった気がするがまぁ仕方ないだろう。



「名前は手紙書いたことあるか?」


「…馬鹿にしてるんですか、両親や友達にはしょっちゅうです!!

…あ、書き方わからないとか?」


「し、しょうがねぇだろ!…書く奴なんていなかったし…文字書くのだって日記ぐらいなもんで…。」



フフフ、となんだか楽しそうに名前は笑って俺の隣に立った。ペンを何本かもう一度俺に渡して、便箋を前に置かれる。



「じゃあ私が教えて差し上げます!
で、どなたに送るんですか?」

「へ?別にそんな誰だっていい」


「駄目ですよ!誰に送るかで書き方は全く違うんですから!!
使うペンや便箋だって変えなくちゃいけないんです。失礼ですよ?」


「そ、そうなのか!?」



驚いて目を見開く俺に対して名前はもちろんとばかりに首を縦に振る。
手紙がそんなに奥深いものだったのか、と俺は頭を抱えた。



(マジかよ、…でも誰かなんて言えねぇし…だからといって一人で手紙なんか書けないしな。…あ゛ー…なんでガイがいねぇんだ)



「…ルーク様、もしや恋文ですか?」


「はい!?な、な、なんで」


「…やっぱり。だから教えてくださらなかったんですか、納得です。
んー、でしたらこのペンで便箋はこれで大丈夫です。封筒は可愛いの私が買ってきますね。」


あまりに彼女がテキパキとしていたのでありがとう、なんて素直にお礼を述べてしまった。
しかしそこで名前はうーん、と眉を寄せた。


「で、内容に関してですけど……こればっかりは私が口出し出来ることじゃないですね。
とりあえず書きたいこと書いてみるしかないとおもいますよ?」


「そう、か?」


「だって私が書いちゃったらだめじゃないですか。ルーク様が伝えたいことを書かないと。………公式な手紙じゃないのであんまり前置きとかはいらないと思いますけど、」


「うわっ!?お前、見んなよ!」


ゴミ箱に押し込んだはずの便箋をいつのまにか開いて、名前はそう言った。
くすくすと笑って、トレーを持ってでは、と身を翻す。



「ルーク様のお気持ちが伝わりますよう、祈ってます。」


「…サンキュ」











思い出のラブレター
(あれ、この封筒は…でぇええええ??!!ルーク様から、恋文…?!しかも私宛…!うっそ…ナタリア様へかと思った…)(お前の笑顔が好きだ)(は、恥ずかし…)




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