「で、スパーダの彼女ってどんな人だったの?」
その言葉を口から出すのにどれだけ葛藤があったことか。
「は?」
「だってルカに聞いたよ?スパーダ彼女いたんでしょ?」
パチクリと瞳を見開いて、スパーダはルカの奴、と吐き捨てるように言った。スパーダの隣に座って、逃げられないように裾を掴んでやった。
好きな人が昔好きだった人、気になるのは当たり前のこと。聞きたいとは思っていたけれど、いまいち勇気が無くて放置していた。
しかしそこに飛込んできたルカ情報。“スパーダって彼女いたんだって、うらやましいよねぇ”、だなんて。私とスパーダが好き合ってるの知ってて言っているから天然なんだか狙ってるんだか判断しにくいったらない。女の子はいろんなことに感化され安いんだから少しは気にして欲しいのに、なんて。
「あー、まぁ、な?」
「どんな人だったの?」
「言わねーっての!!お前だっていんじゃねぇのかよ?」
「私はスパーダだけだもん!!スパーダが初めて!!」
…。
言ってバッと体が熱くなった。スパーダにもやられたとばかりに視線を外された。でもここまで来て引き下がれない、絶対に、聞きたい。
こちらからも、話すしかない。
「でも…好きだった人、なら、いたかな。」
「…どんな奴だよ?」
「好きだった、っていうより憧れてたくらい。
近所に住んでた子。いろんなこと知ってて頭よくて、ルカみたいな。…運動も出来たけどね。」
私の話なんか所詮子供の気まぐれに過ぎない。その頃は皆その子が好きだったし、先生にほめられる子は人気があるものだった。今はあの子のこと好きだなんてきっと思わないんだろうな。
でもスパーダは少し不機嫌そうにしていて、それが嬉しくて私は彼の体を揺すった。
「ほら、スパーダも話して!!」
「…後悔すんなよな…」
スパーダは話づらいのか顔を下に向けて口を開いた。私はじっとそれを凝視して、同時に頭が一気に回転し始めた。
「…まぁ、見た目は良かったんじゃね?美人だったろうし、スタイルもいい女だった。気も効くし、なんていうか、男に好かれるタイプ?」
「へ、年上?」
「…おう。」
少し見くびっていたかもしれない。スパーダを知ってしまってからはあまり不良とか、悪い感じはしなくなっていたからそういう経験がどれくらいあるかなんて考えなかった。
というか予想外、想定外の回答。そんな人がスパーダの元彼女さん?
そうだよ、スパーダって不良だったんだ…。
「えっと、別れた…んだよね?」
「ったりめーだろ?とっくだっての。」
美人で、スタイル抜群、かぁ。旅の中でそういう人が好きだっていうのはなんとなくわかってたけど、これは努力してなんとかなるものなのかな?すっごくかわいい人がスパーダの前に現れたら私は止められるんだろうか。いや、止められない。
それに性格もいい、なんて一体なんで別れたのか謎だ…。
「…妬いてる?」
「…ちょっと。本当に、ちょっとだから。」
なんて言っているけれど聞かなきゃ良かった、とかなり後悔が襲ってきていた。絶対に顔に出さないようにしようと頑張ってはみたもののおそらくスパーダにはバレた。
前の彼女さんと私、多分似ても似つかない。よくよく考えれば前の彼女さんみたいな人がスパーダのタイプそのままだった。やられた、本当にそう思う。
なれそめだとかも知りたいとこだけれど聞けそうにない。
「名前」
「!」
ふと頭を上げれば降ってくる優しいキス。
ニヤリと口元を上げてスパーダは嬉しそうに笑っていた。
「昔の話、だろ?」
忘れろ、と緊張で冷たくなった頬を撫でられた。
「…私、。」
比べても仕方ないこともわかっていたのにやっぱり比べた。
でももし、スパーダの元彼女が全然キレイじゃなくて、性格も悪かった、なんて言われたとしても嬉しくなかったんだろうな。
いつかスパーダが私のことを誰かに話すとき、そんな風に言われるのかな。やだな、そんなの。言われるっていうか、スパーダの昔には、なりたくないな。いい女だったと言われても、スパーダから離れてる自分なんて嫌。
…だから
「昔の彼女がどうでも気にしない、ことにする!」
「い、いきなりなんだ…?」
「そのかわり…」
彼氏彼女の事情
(スパーダの最後の彼女、私にしてね)
(…お前、それさ…)