恋バナ、と言うのは女の子の一番の好物と言っても過言ではないと思う。



相手の話を聞いていろんな想像を膨らませ、アドバイスという名の感想を述べる。また、自分の体験なんかを話しながら思い出していくのは楽しいことこの上ない。自分はこうだったけれど、あの時こうしていれば、こうしてくれれば、なんて仮定の話だって面白い。
その中に恋愛真っ最中の人がいたりしたならば、楽しさは何倍にも膨れ上がる。恋自体だって楽しいのに恋の話が楽しくないわけがない。

そんな自らの経験からだって恋バナが楽しいものであることは十分承知なのだけれど、私の目の前にいる少女はなんだか随分と固まって、淡々と自分の想いと経験を述べていた。




「へぇ、じゃあ名前は前々からスパーダ君とは知り合いだったの?」


「う、うん、一応私も貴族みたいなものだったから。…下流だけどね。」


ずず、と私は音を立ててお茶を飲むが名前は全く手をつけない。いつもなら喜んで食べる宿屋の部屋に置いてあるお菓子も変わることはない。何かあるな、と感じつつも敢えて何も聞かないでおくことにした。



「私も町出歩いたりすること多かったから、あの下水の秘密基地使わせてもらってたの。昔はよくそこで落ち合ってた。」


「家の人から逃げてたの?」


「スパーダはそうかな。
でも私は違うよ、別に最初から探されたりしなかったから。家に許可取って出てきてたし。」


今は違うけどね、と苦笑いしてイルは窓の方を向いた。外からイリアとエルマーナが騒ぐ声がする。…もう、疲れてるんだからちゃんと休みなさいって言ったのに。


「…彼処を今はエルが使ってたなんてね。
スパーダといろんなもの持ち込んだけど、あれらもまだあるのかなぁ。最近はあんまり行ってなかったからわかんないんだけど。」


「そうなの?」


「適応法が可決するって噂が流れ始めて、家が厳しくなったの。私、天術使えるのバレてたし。
だから再会した時は、嬉しくて。」



ふうん、と私が相槌を打つと、名前は初めてお茶を手にした。
私から見たら名前がスパーダ君を好きなことは明らかだし、女同士で話すのだったらそういう話の方が盛り上がるかと思ったのだけれどなんだか失敗したみたいだ。普段よりかなりテンションが低い。いつもはもっと元気に、というか彼の話はムキになってするような子なのだ。


(私…何か悪いことしちゃったかな…?)


といっても怒っている風ではないし、自分が何かした覚えもない。名前も何か言ってくるそぶりもないのだけれど、自覚なしで小さな地雷をどこかで踏んだらしい。



「私もスパーダ君みたいな幼馴染み、欲しかったな。兄弟とも友達とも違う、関係っていうのかな?」


「へ?あ、ああ……そう?」



名前がうろたえた。一瞬きょとんとしてしまったけれど、なんとなくわかった気がした。彼女の様子がおかしかった理由、わかるまであと少し。



(…意地悪しちゃおうかな)



次になんと質問してみようかと思考を巡らせていると、それを悟られたのか名前はあわてて立ち上がって後ずさった。



「、アンジュ、私買い出し行ってくる、から」


「あら、話は終わってないよ?」


「…っ…」



笑みを浮かべてやると名前はため息をついて、私を見据えた。なんだか今にも泣きそうだ、可愛い、なんて思っている自分がおかしかった。



「私に聞きたいことがあるんじゃない?」



沈黙があって、名前がやっと口を開く。
それは期待通りの言葉だった。





「……アンジュ…、スパーダのこと、好き、なの?」



話題にこれを選らんだのは大成功だったらしい。



「え?」



「え…違、うの…?」



思わず笑ってしまって、勘違いだと気付いたのか名前はこわばっていた顔が途端に緩んだ。良かった、と呟いてとても嬉しそうに笑った。



「違…うんだよね?

だって、アンジュが“スパーダ君の話が聞きたい”とか言うから……私本当にどうしようかと…!!」


「うふふ、ごめんなさい。やだ、全然そういうつもりはなかったんだけど、」


「良かった…、あぁ、もう、」


良かった良かった、と何度も何度も呟いて名前は扉から出ていった。かなり不安だったらしい。表情が明るくなったのがとてもわかる。





「おーい」



噂をすればなんとやらという奴だ、名前と入れ替わりでスパーダが部屋の扉を開けた。



「あ…?アンジュ、名前の奴は?」


「今買い出しに行ったよ。追い掛ければ間に合うと思うけど?」


「サンキュ。」



彼がバタバタと廊下を走る音がして、窓から外を見ていれば二人が並んで歩く姿が見られた。頬杖を付きながらそれを見つめていた。



「入る隙間なんて、ないじゃないの。」



名前が食べなかったお菓子を開け、口に含む。甘さが口一杯に広がった。








恋バナ事件
(本当に、アンジュがスパーダ好きじゃなくて良かった)
(スパーダ君があの子しか見てないことわかってるもの)

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