彼に言った言葉が、ごめん、だったのか、ちょっと待って、だったのか、それとも離してだったのか。
その言葉が彼を悲しませる言葉だったのかすら思い出せない。
グリーンに抱き締められた時、物凄く悪いことをしているような気がした。彼から抜け出して、逃げ出して。
涙を堪えて私は部屋のベッドにすがり付くしかなかった。
なんて。
なんて残酷なことをしていたんだろう。
レッドが好き、なんて。
グリーンは私が好きだったんだ。
いつから?
「うそ……」
頭がパニックでどうにかなりそうだった。叫んで、泣いて、昨日からずっと溜まってきたものを吐き出した。
嬉しい、物凄く嬉しい。
かっこよくて、頭もよくて、ジムリーダーで、皆からも凄く好かれているあのグリーンが私を好きだと言ってくれた。
こんなどうしようもなくて、悩んでばかりで行動できない、なんの取り柄もない私を。
「…このまま、グリーンにしちゃう…?」
グリーンがどんな人か、なんてよくわかってる。
真面目で、一途で、優しくて。
きっと私のこと凄く大切にしてくれて、私も彼のこと大好きになる。私がお世話になってるオーキド博士の孫だし、皆喜んでくれて、祝福してくれるだろう。
幸せな、未来しか見えない。
レッドとは違って、ずっと近くにいてくれる。彼はジムリーダーだから。
そう、
「…レッドとは…違って…」
なんで私、こんなに冷静になったんだろう。
わかってる。
あり得ないの、グリーンにしちゃう、なんて。
見た目も、中身も、レッドはグリーンには敵わない。
レッドは人見知りだし、無口だし、ポケモンのことしか考えてない。
私のこと、置いていくし、何考えてるかわからない。
外見だって、百人いたら八十人くらいはグリーンの方がかっこいいって思うと思う。
ただあるとしたら、レッドの方がポケモンが強いってこと。
私はポケモンが強い人が好きなの?
そんな、まさか!
レッドにする理由なんてない、でも私は。
ピピピ、とポケギアが鳴る。
グリーンかな、と思って表示を見ると、違った。
そこには彼の名前があった。
「…もしもし…」
「レッド?」
「え、………」
「…うん!」
心臓が大きく跳ねた。
グリーンに告白されるよりもっともっと強い。
ただ、声を聞いただけなのに。
なんの理由もないけど、それでも君じゃなきゃ駄目なんて。
でも知ってる、それをね、恋と呼ぶの。
幸せにしようと思ったさ
(それでもどうしても)
(そして私は、彼を)