私はどうしたらいいんだろう。
そう考え始めたのはいったい何時だったのか。
貴方が好きなんだ、そう気づいたのはもうずっと昔。
「てなわけで聞いて聞いて、私の心の友。」
「なんで俺が…?てか今何時だと思ってんだよ!」
「深夜二時だけど大丈夫、気にしない!レッドは明日の朝出発だからまだいける。うん、いけるわ!」
おとなりさんで幼なじみのグリーンの部屋に忍び込んで、ベッドに入っていた彼を叩き起こす。
それだけだとなんだかすごく私が悪いみたいだから(実際そうなんだけど)、とりあえずママがくれたミックスオレをグリーンにあげた。
深夜二時といっても私の頭はフル活動中。まるで寝起き三時間後なんじゃないのってレベル。ほんとはもう昨日から全く寝ていません!
だってだって!
彼がやっと帰ってきたんだもん。
チャンピオンになって、帰ってきたんだもん!
「グリーン、私どうしよう!」
「知るかよ…レッドの家行け、隣なんだから」
「駄目。そんなはしたないことしたくない。」
「お前…」
「どうしようどうしようどうしよう!!!」
(まったく…俺の気もしらずにこいつは…)
レッドが帰って来たのは今日の朝。
ずっとずっと待っていて、チャンピオンになったと聞いてからも待っていて、やっと帰ってきた。
「変わって…なかったなぁ…」
「まぁレッドだし。お前だってポケギアで連絡取ってたんだろ?」
「そうだけど!なんか話すときの視線の位置とか、仕草とか、笑うのヘッタクソなこととか!昔と一緒、全然変わってない!!」
朝一番に帰ってきて、いきなりレッドは家で寝ていたらしい。レッドのママが皆に連絡してくれて、それでさっきまで博士やグリーンも一緒にレッドおかえり会をやっていたのだ。
でも私はほとんどレッドと話していない。
博士や皆がレッドと話すのを見ていただけ。
ずっと想いを寄せていたこと、今日を毎日毎日楽しみにしていたこと、何も言えていない。
「…」
「…俺、寝ちゃうぜ」
「なんでよ!」
「じゃあどうするってんだよ!」
「そんなの私が聞きたいよぉ…」
今しかない。
今しかない。
今しかない。
さっきから何度そう自分に言い聞かせただろう。
何分レッドの家の前に立ち尽くしたんだろう。
「……とりあえず、言うこと書いてみる!」
ペンを取り出して、ひたすらレッドへの告白を考える。
好き、昔からずっと。
憧れていたの。
少しでもそう思ってくれるなら。
私はあなたが。
そんな、ひたすらにありきたりな言葉しか並べられない。
「……そんな長いのかよ?」
「うー」
「あはは!柄じゃねー」
だんだんグリーンの声が遠くなっていく。
でも浮かぶのはグリーンじゃない。無表情で、本当に愛想が足りない彼だ。
(きっと気が付いた時には彼はいない…でも…)
「……おい…?」
声は聞こえる。でも意識は遥か彼方。
勇気がない私は、眠さを理由に貴方に伝えることを拒んだ。
「…またな、レッド」
太陽が輝いて、グリーンは窓から赤い帽子の彼に手を振った。彼が行ってしまってから、自分のベッドで寝息を立てる彼女を見た。
「…勇気がなくたって、どうせ…諦めないんだろ…?」
きっと起こして背中を押せば彼女は行ってしまう。足りないのはほんの少し。
ほんの少しの勇気。
だったなら。
明日君はいない
(起こさない、くらい許してくれたっていいじゃないか)