彼女はよく笑う子だった。




「こーら、レッド!!」




それは、例えるなら太陽のようで、天使を通り越して女神のようで、ほっとする、こっちまで笑顔になってしまうような。
彼女はいつもしかめっ面だという俺の顔をひっぱって、ゆがませるのが好きだった。
それをみてまた笑って、俺の手を引いて走っていく。



「…今日はシロガネヤマで修行を…」


「却下!レッドは私とタマムシシティまでお買いものよ。」



いいでしょ?なんてずるい。
彼女のお願いを断るなんてできないのに。


「…わかったよ」


「やったー!じゃあさっそく出発ね!」



お願い、我儘で聞かなかったものなんてないんじゃないかってくらい俺は彼女の言いなりだった。
もちろん嫌だなんて思ったことはない。
名前はいろんなことをしたがって、いろんなものを欲しがった。
ダンスをするピッピがみたい、太陽の石が見たい、ポケモンを使わないでカントーを一周。
そんなどうでもいいことも彼女はしたがった。
そのたび一緒に見に行って、一緒に捜しまわった。

でも、俺が図鑑と共に旅立つときだけは、名前は何も言わなかった。
ずっと一緒に遊んでいたのに、彼女なら「私も行く!」というかと思っていたのに。
ただ、帰ったときに「おかえり」と言いながら、泣いていたのをよく覚えてる。俺が本当にしたいことは、ちゃんとさせてくれていた。


俺が旅から帰ってきて、また名前と俺の旅が始まった。
俺は度々一人で旅に出ていたけれど、それについてこようとはしなかった。

名前が提案するのは短いけれど、それはそれは毎回楽しい旅だった。
お姉さんぶるのに、洞窟や強そうなポケモンを怖がって泣いたり、リザードンに乗って飛ぶことを必至に拒んだり、
どこか子供みたいな彼女がかわいくて仕方がなかった。


「今日も楽しかったー!ありがと、レッド、大好き」


毎回最後にそう言われるのがなんだかくすぐったくて、ただ幸せだった。


「どういたしまして」


そういうのが精一杯で、愛しさを伝えるにはどうしても勇気が足りなかった。

彼女の、名前のことが大好きだって、ずいぶん前からわかっていたはずなのに。







でも、後悔したってもう遅いんだ。




「ねぇ、レッド、キス、してもいい?」


名前と最後に会ったあの日、そう彼女は俺に聞いた。

その時はじめて俺は彼女に自分から手を伸ばして、抱き寄せたんだ。
今でも、鮮明に覚えている。

彼女は、名前は笑ってくれていた。










でも、もうすべて遅い。









あの笑顔も、声も、ぬくもりも。


失って、俺は気づく。




もっと、もっと、君を愛してあげればよかった。







「…名前…………好き、なんだ……ずっと……」










きっと幸せだっただろうと、みんなは言うのだけれど。






いまはただ後悔のラブソングを


(あの日、彼女は俺の前から消えてしまった)(そう、まるで、天使)









∴∴∴∴∴∴∴

ヒロインは病気設定。
ゆえに長旅はできず、レッドと旅するのが精一杯だった。
そんなかんじです。


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