追いかけてばかりではダメなのだと、
知ったのはあなたがもう私の目の前から消えてしまってからだった。
そして私はやっと、貴方に追い付く努力を始める。
いつもいつも、女の子の方が背が高い場合が多い小学校のころでさえ、私はあなたより大きかったことはない。
貴方とおなじくらいの時に、同じくらいずつ背は伸びて、
でも追いついたりはせず、いつの間にか差は広がっているばかりだった。
女の子なんだからしかたないじゃないってだれしもが言う。
いつの間にかいろんなところで差がついて、私は彼ができることの半分もできない。
グリーンもそう。
でもグリーンは立ち止ってくれることが多かった。
私にどうしたらいいか教えてくれたし、出来ないことは助けてくれたし、一緒に頑張ろうって言ってくれた。
貴方は私が後ろにいるのを知りながら、振り向いたりしないでひたすらに先に進み続けてしまったの。
それが悪いだなんて思わない、そんな貴方だから追いかけたくなったの。
そしていつの間にか、貴方は旅に出ていた。
知ってからじゃ、私は何もできなかった。ひとりで旅に出る勇気もなかった。
月日がたって、帰ってきた貴方はチャンピオンだった。
そこで気づく。
いつまでも、私はひたすらに追いかけ続けるだけ。
もう簡単に埋まることのない差なのだと知りながら。
「レッド、私、旅に出ようとおもうの」
「…そうか」
「…いまさらって思うかも知れないけど、でもレッドもグリーンもいろんなことを学んだんでしょう?
私もやっぱりやってみようかなって思って。」
貴方に追いつきたい。
ただそれだけの思いだと、きっとあなたはわかっているんだと思います。
あまり多くは語らないあなただから、沢山の想いがあるのだと思います。
無駄だと思うなら、そう言って、レッド。
「私…あんまりポケモン強くないし、方向音痴だし、いつまでかかるかとか、わかんないんだけど。
…船に乗って、遠い所に行くつもり」
「なんのために?」
「なんのため…なのかな、わたし、見たいの」
マサラやトキワとは違う、海が傍にある町や、デパートとかゲームセンターで賑わう人々。
レッドが二年も過ごした滝が流れる山、ポケモンと空を飛んでみる景色。
この旅をしたら少しでもあなたが見た風景を見ることができる。
カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ。
どこに行くかも決まっていないけれど、もしかしたらあなたが見たことのない風景を、私が見ることができるかもしれない。
レッドが知らない空のしたに、私は行くことができるのかもしれない。
「レッドに負けないくらい、いろんなもの、見てくるから」
そう私が笑うと、レッドはいつもは動かさない表情を少しだけ崩した。
驚いたように、瞳を大きくして。
「旅…か…」
「…旅がそんな簡単なものじゃないってことは、わかってるつもりよ。だから…いってくる」
くるりと身を翻して、私は彼に背を向ける。
「…じゃあ、ね。
またね、レッド。」
走ってしまえばよかったのに、私はそれができなかった。
いつも勝手に離れていく彼、今日は私から離れていく。
私が彼に近づくために、彼から離れていくの。
それがただ、悲しくて、切なかった。
でもきっと、帰ってきたとき、少しだけあなたとの差は埋まると信じてる。
「名前」
「…?」
その時の彼の表情は、いままでみたどの表情より優しくて、
「…頑張っておいで」
「…うん」
空色スパイラル
(あの空の下に彼女が行くのを、ずっとまっていた)