これでもかと力を込めて、それを突き刺すことが出来た私はなんて強くて、情けなくて、馬鹿で、悲しいんだろう。
躊躇もなく、ただ感情だけで動くなんて子供みたいだ。
でもどうせ子供なら、後悔すら知らないくらい子供になりたかった。
柄の部分をただ握り締めて、私は地面を見ていた。顔を上げられなかった。違う、見れなかった。
刺した場所から赤い汁が流れて、まるで私の手から溢れているような錯覚すら覚えた。指の間から黒い柄がちらちら見える。そこから先は彼の胸に埋まってしまって見えない。
私の足元も、真っ赤に染まっている。
静かだ。
物凄く静かだ。
その静寂に、自然と口元が緩んだ。ああ、わたし。
ゆっくり握っていた短刀を引き抜いた。血が、出た。溢れた、流れた。
見たことないくらい、ただ、私と彼は赤く染まる。
怖くて悲しい。
でも、嬉しい。たまらない。
これで彼も自由かな。どこでも一緒に行けるかな、優しく、笑ってくれるかな。
「名前」
ピタリと、私は止まった。
彼が私を呼んだのだ。心臓を狙って刺したのに、あれ、倒れもしない。
浅かった?
うそ、彼の体ならこの短刀で心臓なんて貫通出来る。心臓からずれた?うそ、でも、なんで。
なんで、閻魔は笑ってる?
「無理だよ、名前」
「閻魔、痛いでしょ?ほら、血が出たよ、ほら、だって、私こんなに刺したもん、閻魔立てないでしょう?もう助からないよ、ほら、倒れて、早く、早く…死になよ!!!」
とん、と胸を押すけれど、閻魔は倒れない。それどころか、閻魔の傷は、どこを探してもない。血は出たし、衣服もべちょべちょ、
「俺は死なないよ」
「っ…」
「血が出たように見えるのは、名前がそう思っているからだよ。」
「…や…っ…」
「ほら、時間だよ。」
「うそ…っ…え、閻魔!
あ、あの、私、閻魔を殺そうとしたわ、地獄に、地獄に落として!ここにいさせて、お願い、!一人にしないで、閻魔ぁ!!!!」
すがりつく。
私の体がキラキラして、ふわりと浮き上がる感覚。
手から凶器は消えていた。
見れば閻魔の体はどこも傷付いてなんていなかった。
目に写っていた赤が、きえていた。
ふと怖くなる。
あぁ閻魔大王様、私とは違う存在?どこか遠くにあるもの?
閻魔に触れなくなる。温かさを、失う私。
最後、閻魔は私の頬に手を添えるようにして、笑う。
「…そばにいてよ、名前」
「…っ…!!!!」
意識が拡散していく寸前、閻魔の頬に水が伝った。
それすら私は、蒸発させてしまった。
ただ、残ったのは閻魔の心に深く刻まれた、私の爪痕。
最後に一つ、最悪な贈り物を
(殺さなければ良かった、叫ばなければ良かった、愛さなければ良かった)