「い、や!!!」


「頼む、待って、待って名前!!!」


天国への道を歩こうとする私の手を必死に引っ張って止めようとする閻魔を見上げる。足を止めて、呆れたとばかりにため息をついてやったが、閻魔は私が止まったことに喜んで顔を緩めていた。
ずぃっと指を閻魔に向けて指差す。あぁ、こいつの笑顔が今日は何か腹立たしい。


「うっさいわねぇ、私はさっさと転生するの!」

「名前、人を指差すのはどうかと思うな」
「話をそらすな、イカ。じゃ、バイバイ」
「え!ちょっと、待って!!」


くるりと身を翻して天国への階段を一歩踏みしめると、閻魔の腕が後ろから私の腰を回った。ぐっと引き寄せられて、私は閻魔の腕の中。


「…もう少し待ってよ、名前…」
「…閻魔、私、」
「俺じゃ名前の側にはいられない?」
「なにいってんの、閻魔は大王様でしょ?私はただの死んだ人間なんだから。」
「でも、側にいたい」
「閻魔」


子供みたいだ。なんて言っちゃいけない。この人は生まれてからずっとここに一人でいて、人を裁いて、ただそうやって生きてきた人。
出来るなら一緒にいてあげたい。でも出来ない、私だって本当は閻魔と離れたくなんかない。


「…閻魔、なんで閻魔は大王様なの?いつになったら、解放されるの?」
「うーん…解放されることは、ないんじゃないかな」
「だからなんで?おかしいじゃない、閻魔だけそうやって、転生しないで!私がまた生まれて死んでも、その間閻魔はずっとここにいるんでしょう!?」
「…うん」


閻魔が私の体を離す。違う、こんな顔して欲しい訳じゃない。諦めて欲しいわけじゃない。一緒にいたくないわけない、ずっと永遠があるなら永遠にでも、一緒にいたいよ。


「…人間を裁くなんて、本当なら機械ででも出来ることだと思うよ。」


ポン、と閻魔が私の頭に手をのせた。


「…でも俺がやってる。これは、意味があるからだって、俺は思ってる。ただの偶然じゃないと思うんだ。」


何度彼は私を見送っているんだろう。
私がここに来て、初めて閻魔に会った時のことを、よく覚えている。閻魔は私を見て、おかえり、と言ったのだ。
初めて来た場所で、初めて会った閻魔に言われた言葉は、胸に焼き付いて未だに離れない。


「…どれくらい、待ったの?」
「え?」
「前、私がいなくなってから、どれくらい一人だったの?」


閻魔は答えない。
その沈黙で、言い表せない時間が経ったのだと知る。さっきと変わらない笑顔で私を見る閻魔。今度は悲しみしかない。


「…いる」


「…え?」
「消えるまで、閻魔の側にいる」





「…消えないでほしいんだけどなぁ」





閻魔は、私を抱き締めて、離してはくれなかった。


巡る







(きっとまた別れが来る。貴方を更に愛してからの別れなんて辛すぎる。でも、貴方の辛さに比べたら、こんなの)



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