少しずつ冬へと変わりゆく季節。通り抜ける風が冷たく感じる。日中はそこまで着込まなくても平気だけれど、夕日も沈み始めるこの時間帯は寒いものだ。今日はちょっとばかり薄着をしすぎただろうか。体が寒さで震える。
そんな私を見たからか、隣を歩いていた真くんがそっと、私の手を握ってくれた。先まで冷え切った手から真くんの熱を感じる。私も、ぎゅっと彼の手を握り返した。

「今日はありがとうね。買い物、付き合ってくれて」

「気にすんなよ、俺が好きでなまえに付き合ってんだから」

そう言ってニッと笑顔を浮かべる真くん。本当、この笑顔が好きだ。彼の優しさが出ているようで、心まで暖かくなる。私まで笑顔になるような、そんな魔法みたい。

「でも俺でよかったのか?参考書買うなんて、俺じゃ全く役に立たなかったぜ」

そう言って彼は頭をポリポリとかいて苦笑いを浮かべる。そんなことないよって、そんな気持ちを込めて繋いでた手にぎゅっと力を込める。真くんと一緒に居たかったんだよって。それを改めて言葉にするのは恥ずかしいから、ちょっとした行動で示してみる。真くんもさっきよりも強い力で私の手を握ってくれた。
ちょっと、遠回りしない?と真くんに問いかける。少しでも長く、彼と一緒に居たかった。時間はいいのか?って聞かれたけれど、バスを一本遅らせるくらいなら大丈夫だからって、わがままを言う。真くんに滅多に会えない分、会える時にはちょっとでも彼と時間を共有したいって、そう思う。

仙台と山形。たった1時間の距離だけれど、高校生のお小遣いでは頻繁に行き来する事も出来ない。近いのに遠く感じるこの距離が、ずっともどかしいと思っていた。真くんはこまめにメールもくれたし電話もしてくれる。でもやっぱり、直接会って、顔を見て、声を聞きたい。彼に触れたい。そんな気持ちが爆発して、今日は仙台まで来てしまった。いきなり今日会える?って聞いたにも関わらず、真くんは嫌な顔一つしないで私に付き合ってくれた。その優しさがすごく嬉しくて、愛しい。
お互いの学校生活とか、友達の事とか、他愛もない話を色々していたら、あっという間に目的地のバス停が見えてきた。あの場所についてしまえば、また真くんと離れてしまう。ゆっくり、ゆっくり歩いていたはずなのに、もう後少ししか時間が残っていない。

「もう、着いちまったな…」

そう呟いた真くんの声に、寂しさを感じた気がして、彼も私と同じ気持ちなのかなって思った。離れたくない、ずっと一緒に居たい。今日が終わればまた真くんと会えない日々が続く。お互いに受験生なのだから、そうそう時間を作るのも難しい。
寂しい、離れたくない。そんな気持ちを押し殺して、私は真くんの手を離す。そして彼の顔を見て笑った。

「私、勉強頑張るから。頑張って勉強して、こっちの大学受かって、仙台に住むから」

だから、もうちょっと待ってて?
そう言うと真くんは少し驚いたような顔をして、そして笑った。

「ほんと、なまえには叶わねーな」

そろそろバスが出発する時間だ。じゃあ、またね。そう言って私はバスのステップを上がった。窓側の席に座って、外を見る。バスが行くまで見送ってくれるのだろうか。そこに居た真くんと目が有った。手を振ると、彼も大きく手を振ってくれた。何か口パクで言っているようだけれど、なんて言っているんだろう。少し首をかしげて考えていると、バスが動きだした。少しずつ彼と離れていく距離。強がっても、この瞬間は泣きたくなるくらいにつらい。真くんがいた方向を見るようにずっと、窓の外を眺める。
大丈夫、来年の春にはきっと、私も仙台に住んで、今よりずっと彼の近くで過ごすことが出来るはずなんだから。そう自分に言い聞かせて気持ちを奮い立たせる。
そんなことを考えていた時、マナーモードにしていた携帯が震え始めた。どうやらメールが来たみたいだ。差出人は、真くん。メールを開いて、思わず笑みがこぼれた。うん、真くんのためにも勉強、頑張らなきゃ。これからしばらく彼に会えなくても。来年のために、未来のために。…ちょっとだけ、寂しくなった時は電話しちゃうかもだけど、それくらいは平気だよね?

『大学受かったら、一緒に住もうな』

そう書かれたメールを見るたび、きっと私は頑張れる。本当、真くんには叶わないなぁ。
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