付き合い始めてもう何年経ったかなんてよく覚えてないくらいには付き合っている恋人がいる。彼の仕事の関係でここ最近はずっと遠距離恋愛だけど、それなりに上手くやってきたしこれからも大丈夫だって私は思ってた。けど…


「最近メールしても電話しても返事くれないんだよ!絶対川崎の可愛いおねーちゃん達と浮気してるに違いないよ!」

「…あんた…かなり酔っ払ってるでしょ…」


居酒屋で飲みながら、友人に思わず本音をぶちまける。最初は広島と神戸だったし、会いに行こうと思えば行ける距離だった。遠距離恋愛でも平気なんだって、いつか渡と結婚とかもするのかなって思ってた。
けど去年から渡は関東の方へ行ってしまった。川崎のチームで頑張ってるというのも分かってるし、理解してるつもりだ。
…理解しても、心まで納得出来ている訳じゃない。渡に会えない寂しさは募るし電話やメールをしてもその寂しさを完璧に埋めることは出来なくて。今までずっと我慢してきたけど、ここ最近の音信不通と酒の力もあいまってついに爆発してしまったという訳だ。


「だって…だって…!今日は…」


私の誕生日なのに、と言おうとして言葉にならなかった。目からこぼれる涙を止めることが出来ずただただボロボロと泣く。前に座った友人がギョッとした顔で私を見る。本当、友人に迷惑ばっかかけてる。それでも自分の気持ちを整理出来ない。


「渡の…ばかぁ…!」

「誰がバカだって?なまえ」


急に私の後ろから聞こえる低めの声。バッと後ろを振り向くとそこに居たのはさっきまで私が友人に愚痴っていた元凶が立っていた。いきなりのことに思考が全くついていかない。


「え…わた、る…?」

「おう、正真正銘の八谷渡だぜ。」


そう言って笑うその姿はまさに渡で、さっきまでボロボロこぼれ落ちていた涙も驚きですっと引っ込んでしまった。


「え…何で…?あんた川崎に居るんじゃ…」

「なまえの誕生日だってのに会いに来ねぇ訳ねえだろうが。」

「最近メールも返事くれなかったのは…?」

「あー…それに関しては謝らねぇとな…」


わりぃ、携帯無くした。

あっけらかんと話す渡を見て、安心したようなムカムカするような、よく分からない気持ちになる。とりあえず一発殴っても罰は当たらないだろう。そう思って振りかぶると、腕を掴まれそのまま渡の腕の中に引き込まれた。


「…心配かけさせて悪かった。」


耳元で聞こえた渡の声にさっきまで収まっていた涙がまた落ちてきた。
バカバカ渡のバカ…!渡の胸を軽く叩きながら泣きじゃくる。ゴメンな、と私の体をポンポンと叩いてくれる渡の手が、ちょっと高めの渡の体温が私を安心させてくれる。


「…あんたらさぁ、ここが居酒屋だって分かってんの?」


友人のその一言にハッとする。アルコールが入っていたとはいえ、周りが見えなくなるなんて…!と恥ずかしくなる。急いで渡から離れようとしても、渡の力が強くて腕の中から抜け出せない。


「わっ渡!ちょっと離してよ!」

「嫌だね。久しぶりになまえに会えたんだぜ?離してたまるかってんだ。」


恥ずかしいような嬉しいような、そんなこそばゆい気持ちになる。友人は「はいはいごちそうさまでした」と呆れてるみたいだ(うん…本当ゴメン…)
お邪魔みたいだから私帰る、と友人はさっさと帰ってしまった。帰りがけに「ここの支払いはそこの八谷さんにお願いするからよろしくねー」と言っていくあたり抜け目がない。


「ね、帰ろう?」


流石に醜態を晒しまくったこの場所にもう居たくないと渡に言う。(…もう二度とこの店には来れないなぁ)
渡もしょうがねぇなぁといった感じで渋々私を放してくれた。二人で会計をしてから店を出る。


「それにしてもよく私の居た場所分かったね。」


携帯を無くして連絡を取れなかったというのに私のところに来てくれたというのは凄いなぁとちょっと感心する。渡は「そんなのなまえへの愛の力に決まってるだろ」と笑う。そう返ってくるような気はしてたけど、渡に愛されてるなぁって思えて顔が綻んだ。


「なまえ」


名前を呼ばれてなぁに?と渡の方を見ると唇に触れる感触。あ、キスされたと気がついた頃には渡の顔は離れていて、ちょっと残念なんて。


「んな物欲しそうな顔すんなよ。抑えきれなくなるだろ。」

「渡になら構わないもん。」


じゃあさっさと帰るか、と手を繋いで私の家へと歩き始める。歩きながらくだらない話をして、笑って。私の家が近づいてきたあたりで渡がまた私の名前を呼んだ。


「誕生日、おめでとう」


そう言ってまたキスをしてくれた渡にありがと、と返しながら私からも彼へキスをした。
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