「どうしてぼくにはおとうさんがいないの?」

「…お父さんはね、レンが生まれる前にお星様になっちゃったのよ」

「おほしさま?」

「そう、お星様」

寝る前にレンにそう聞かれた。いつかは聞かれることだとは思ってはいたけれど、こんなに早く聞かれるとは思わなかった。まだ小さいレンにどう説明したらいいか、少し悩んだけれど…今はちょっとぼかして伝えよう。

「レンのお父さんはね、空からレンをずっと見てるんだよ」

「そうなの?ぼくのことみてくれてるの?」

「えぇ、そうよ」

だからいい子にして寝ないとお父さん怒っちゃうかもしれないわよ。と冗談めかして脅かすように言うとヤダヤダ!ぼくねるもん!とぼふっと布団に潜ってしまった。ぽんぽん、とレンの体を軽く叩いておやすみと声をかける。少し時間が経ったら、すぅ、と規則正しい寝息が聞こえてきた。

やっぱり、この子に父親は必要なのだろうか。そう思う事もある。女手一つで育てていくのは大変な事だというのは分かっている。でも、私はもう彼以外愛せないから…レンのために誰かと結婚ということはできない。それに、相手にも失礼だろう。
拓也が手を差し伸べてくれたこともあったけれど、私はそれを断った。拓也には色々迷惑をかけてきたのに、これ以上拓也に寄りかかるわけにはいかない。…甘えたら、駄目だ。拓也は拓也の人生を歩いてほしいのに、私とレンが足かせになってしまうのは嫌だった。

「おとうさん…」

レンの寝言が聞こえて、少しハッとする。夢の中で彼に会えたのだろうか。もし会えたとして、どんな話をするのだろうか。考えてみると、彼が子供を抱いている姿など、想像が出来なかった。拓也はあんなに様になっているというのに、不思議な感じだ。レンは彼の子なのに。
もし、もしも…彼が生きていたなら、私たちは一体どんな家族になっていたのだろう。彼はどんな父親になっていたのだろう。想像しても想像しても、イメージが出来ない。どこか浮世離れしていた彼だから仕方のないことかもしれないけれど、ほんの少しだけ寂しく思う。想像の中だけでも、私と彼と、レンの家族で過ごしたかったのかもしれない。

(本当、わがままね私…)

レンがいればそれでいい。そう思って生活はしているけれど、心のどこかでまだ彼を求めている。彼がいないと私の心は満たされないのだろうか。
そんな自分に少しだけ嫌気がさす。けれど、彼を忘れられない自分にどこか安心している部分があるのも事実だ。彼が死んでから6年も経った。彼の存在を忘れてしまった人も多いだろう。私は…私だけは、ずっと彼を覚えていたい。いや、ずっと覚えている。




私が彼を愛しているということを忘れてしまったら…もう私じゃなくなるような、そんな気がした。
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