「落ち着いて聞いてくれないか」 そう拓也が一言言ってから、私に話してくれた事はあまりにも衝撃的すぎて、私には理解できなかった。 「嘘…嘘でしょ…?そんな、こと…」 「…残念ながら、本当だ」 私は壊れた人形のように、崩れ落ちた。そして口からは嘘だ、嘘でしょ、と言った言葉しか出てこない。目の前が真っ暗になる。信じられない…信じたくない。事実を認めたくなかった。 「蓮が、死んだなんて…嘘に決まってる!」 そう拓也に向かって叫んだとき、私の目から涙が流れた。一度こぼれだしたものは私に止める術は無く、ぼろぼろと落ちていく。 嘘だって、言ってよ…。そう拓也にすがりつきながら呟いた言葉は、私の希望だということは分かっていた。 蓮が、出かけていってから数日…彼と連絡が取れなくなったのは事実だ。何度電話をしても、メールを送っても、返事がくることはなくて。心のどこかで最悪の事態が起きたのではないかと考えたこともあった。そんなことはない、とその考えを振りきるように今日まで過ごしてきた。何事もなかったかのように蓮が帰ってくることを期待しながら、彼を待っていた。 そんな淡い希望が、今、断たれた。 「なまえ…」 拓也が私の名前を呼ぶけれど、私は返事を返す事も出来なかった。彼のスーツに顔をうずめるように、泣き続けた。そっと、私の体に拓也の手が回る。 「すまない、俺の…力が足りなかったばかりに…」 そう言って拓也の手に力がこもる。その手と声は震えていた。その時に、拓也もつらいのだと、泣いているのだと…ようやく気がついた。私の肩にぽつり、と拓也の涙が落ちる。 彼の死に悲しんでいるのが私だけだと勝手に思っていたけれど、拓也も親友を亡くしたのだ。つらくないわけがない。それなのに、そのつらさを隠して、私に事実を伝えてくれたのだ。そう思ったら、もう涙を止める事など出来なかった。拓也の背中に手をまわして、力を込める。 蓮が死んだこと。そのつらさを拓也と分け合うかのように、二人で泣いた。どれだけ泣いたか分からないけれど、涙が枯れる事はなかった。一人だと今すぐ死んでしまいそうなくらいに、つらい。すぐそばで感じる拓也の体温が、私を現実に繋ぎとめている気がした。 「蓮…蓮っ…どうして…どう、して…」 私はいつか、彼の死を受け止めて前に進む事が出来るのだろうか。 |