なまえに言えないこととかがあれば遠慮なく俺のところに連絡をしていいぞ、とレンに俺の連絡先を渡して、先ほどレンは家に帰って行った。その顔は少し晴れ晴れとしていて、レンの中で何かが吹っ切れたようだ。まだまだアイツのことに関しては整理しきれないとは思うが、いつかレンなりに納得した答えを出してくれれば、と思う。
仕事の合間にCCMをチェックしてみるとメールが2件届いていた。1件はレン、もう1件はなまえだ。二人のメールの文面を見る限り、どうやら無事仲直りできたようで、思わず笑みがこぼれた。

「なんだか嬉しそうですね、社長」

急に結城の声が聞こえて思わず変な声を上げてしまった。そんな俺を見て結城は声を出して笑っている。くそ、不意打ちは卑怯じゃないか。と言うとちゃんと声かけましたよ?社長が気付かなかっただけで、と返されてしまった。…それだと言い返せないじゃないか。俺の落ち度、か。
開発部からの書類を受け取り、目を通す。今のところ順調のようだな。そういえば、と結城が声を上げるので俺も書類から顔を上げた。

「昨日レンくんどうしたんですか?」

「あぁ、どうやらなまえと喧嘩して家出してきたみたいだ」

「家出、ですか…まだ幼いのに反抗期ですかね…」

「まあ、そんなものだろう。大丈夫だ、今日ちゃんと帰って行ったからな」

それならよかったです、と結城は笑った。今度二人で遊びに行くか?と冗談交じりに問いかけるとそれもいいですね、なんて答えが返ってきた。本当に今度結城とブルーバードに顔を出すのもいいかもしれないな。なまえに今度聞いてみるか。


*



レンの家出から一週間くらい経っただろうか。あれからは特に何事もない日々が続いている。以前と変わったことと言えばレンからのメールが届くようになったということくらいだろうか。学校で何が有ったとか、友人たちとのLBXバトルで勝ったとか、些細なことの報告のようなメールだけれど、レンの日常を知ることが出来るのは嬉しいものだ。レンからのメールを見ると仕事の疲れも飛んでいくようだ。
今日もまたメールが届いているだろうか。ここ最近の俺のちょっとした楽しみになっていた。その楽しみを見るためにも早く仕事を終わらせてしまおう。ただでさえ以前に溜めてしまった仕事が響いているのか予定より少しばかり遅れ気味なのだから頑張らなければ、と自分に活を入れる。

もう日も暮れ始め、少しずつ空が赤くなっていく。そろそろ定時になりそうだ。今日のノルマまで後少しなのだからこれを片づけてから帰ろうか、などと考えつつペンを走らせる。そんな折、机に置いていたCCMが着信を示した。ディスプレイに表示されている名前はみょうじレン。メールじゃなくて電話をかけてくるなんて珍しいな、などと思いつつCCMを開いた。どうした?と声をかけようかと思った矢先、CCMの向こう側からレンの焦ったような声が聞こえてきた。

『拓也さん、ど…どうしよう、オレ…オレ…っ』

「どうしたレン?少し落ち着いて…」

『母さんが…母さんが、真っ青な顔で倒れて、て』

「なんだって!?」

思わず椅子から立ち上がった。気が動転しているのかレンは言葉を詰まらせながらも状況を説明しようとしてくれている。どうやら学校が終わって、友人たちと遊んでから帰ってきたらなまえが倒れていたらしい。いつから倒れていたのかは分からないと。

『母さん死んじゃ…死んじゃうの…?』

「落ち着けレン。とりあえず救急車を呼んでなまえを病院に連れていかない事には何も分からない」

『あ…そっか、救急車…』

俺と話すことで少しずつではあるがレンは落ち着きを取り戻してきた。とりあえずレンに救急車を呼ばせてなまえを病院へ連れていくようにと指示を出す。

「俺もすぐ病院へ行く。大丈夫だ、なまえはきっと大丈夫だから」

俺の言葉に安心したのか、少し涙ぐんだ声でレンはうなずいた。それまでなまえを頼むぞ、と言い俺は電話を切って走り出す。
店の場所から考えて運ばれる病院はきっとミソラ総合病院だろう。TO社からは少し遠いけれど、急いでいかなければと気持ちばかり焦る。先ほどはレンに大丈夫だと言ったけれど、自分の希望的観測が含まれている事に違いはない。本当になまえが無事な保障などどこにもないのだから。




頼むから、無事でいてくれなまえ。まだ君はレンにしてあげたいことがたくさんあるだろう?
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