そうだな…何から話したものか…。

俺と檜山…レンの父親は大学時代に出会ったんだ。性格や考え方が似ているとは言えなかったが不思議と俺達は馬があってな。気が付いたら一緒に居たような気がするよ。アイツの隣は俺にとって居心地も良かったしな。アイツもそう思っていてくれた、と信じているよ。
檜山は飄々としていた、というか自分と他人の間に一線を引くような奴だった。自分のテリトリーには絶対に入れさせない。そんな感じだ。俺もそれを感じていたから檜山が踏み込んでほしくないと思ったところは出来る限り踏まないようにしていたな。けど、その一線を越える事を許された人が一人だけ、居た。それが、なまえだ。

なまえと俺達はTO社の入社式で出会った。俺と、檜山と、なまえ。同期なんだ、俺達は。山野博士、はレンも知ってるか。LBXを生みだした博士だよ。その博士の元で3人、研究に没頭してたものさ。一緒に仕事をしていくうちに、檜山となまえは、お互いに惹かれあったんだろう。見ていてすぐに分かったよ。檜山も彼女の前だと本心で笑っていたし、なまえもアイツの前だと表情も豊かで、綺麗だった。
互いに想い合っているというのにアイツらときたらなかなか同僚という枠を超えようとしないから俺と里奈…あぁ、一緒に仕事をしていた同僚なんだが。二人で画策してアイツらをくっつけた、なんてこともしたなそう言えば。あの時はなかなか傑作だったよ。普段からポーカーフェイスが信条だ、という檜山の顔が面白いくらいに崩れていたからな。まあ檜山となまえの馴れ初めはこんな感じだな。ん?何か質問あるのかレン?

「拓也さんは、母さんのこと好きなんだろ?」

なんだ、レンにばれていたのか。…そうだな、好きだよ。俺は、なまえの事が好きだ。

「告白とか、しねーの?」

告白か…しようと思ったことは一度もないな。俺が彼女を好きになったときにはもう檜山もなまえも互いに想い合っていた。俺が入り込む隙間なんてないと分かっていたからな。きっと俺は、檜山に恋をしているなまえが好きなんだと思う。だから、いいんだ。このままで。

「…よく、わかんねぇ。好きなら自分のものにしたいって思うんじゃねーの?」

はは、いつかレンにもわかるさきっと。自分の幸せより相手の幸せを願う、という気持ちが。


少し話が逸れたな。檜山の話だ。アイツが、ある事件を起こしたのは忘れもしない…10年前だ。その時俺と檜山はシーカーと呼ばれる組織を作って活動していたんだ。海道義光という政治家をトップとしたイノベーターというテロリスト組織に対抗するために、な。郷田ともその頃に出会ったんだ。郷田もシーカーとして活躍してくれたんだ。あぁ、その頃の写真が確かあったはず…。見るか?檜山が写真として残っているのはこれくらいかもしれないな。

「拓也さんと、この学ラン着てるのが郷田さん?若っ!」

そりゃそうだ、この頃の郷田はまだ15歳だからな。成長期真っ最中と言ったところだろう。それで、俺と郷田の間に居るのが、檜山だ。レン、お前は檜山にそっくりだよ。きっと成長したらこんな感じになりそうだな。

「これが、父さん…」

そう、お前の父親だ。どうだ?初めて父親の顔を見た感想は。

「…なんか、変な感じ。知らない人なのに、なんか懐かしい気がする。」

…そうか。そういうものなのかもしれないな。
話に戻るが、10年前…海道義光とイノベーターが世界を支配しようと暗躍していたんだ。それを止めるべく、俺達は活動していた。俺の父親も、海道に殺されたんだ。だから
その時の俺は海道への憎しみでいっぱいで、あまり周りを気にするという事が出来ていなかった。それが出来ていたら、檜山を止められたかもしれない…今生きていたかもしれない、と悔やんだものさ。

「父親も?って?」

…本当に聡いな、レンは。10年前に俺は兄を亡くした。イノベーターの手にかかって兄は殺されたんだ。そして檜山も、海道を憎んでいた。いや、海道と世界を憎んでいたと言った方が正しいか。
18年前、アイツの父親は海道の画策にはめられ、多大な被害を出した事件の責任に追われ、失意のまま死んでいったらしい。そしてその責任と遺族からの憎しみは檜山の家族に向けられた。そのまま檜山の家族はバラバラとなってしまった。その時から、檜山は海道を、世界を、恨みながら成長したと、言っていたよ。今のレンと同じくらいの年だ。その時檜山が感じた重圧や感情を、俺は理解することはきっと出来ない。たった10歳だった檜山が、歪んでしまうのも仕方のないことだと、今は思うよ。
世界を憎んだ檜山は、俺達シーカーにも内密にイノベーターとも繋がっていたんだ。その時に、檜山は…人を殺した。海道義光を、殺したんだ。そして海道を殺した後、海道のアンドロイドを作ってイノベーターを支配した。シーカーとイノベーター。檜山はどちらも手に入れたようなものだった。

「父さんが殺したのは、悪い人だった…?じゃあ父さんは悪くないの?」

そう、言いきれるといいんだがな。いくら悪人だったと言えど、人を殺すのはやはり犯罪だよ。俺は海道を憎んでいたけれど、殺したいわけではなかった。然るべき場所で裁かれ、罪を償ってほしかった。そこが俺と檜山の違うところだったんだろう。だから、檜山は俺達の元を離れていった。唯一心を許したなまえも…置いて、一人で。

…10年前に起きたサターンの事件を知っているか?世界首脳サミットへとサターンを突撃させようとして未遂で終わった事件だ。その事件の首謀者が、檜山なんだ。世界を変えると言って、引き起こした。俺達シーカーが、シーカーの一員だった山野バンが檜山を説得して、事なきを得たはずだった。けれど、最後の最後でアイツは…。バンだけを助けて、アイツは自爆するサターンへ残った。そしてそのままその爆発に巻き込まれ…死んだんだ。
あの時の事は今でも夢に見る。檜山も助けられたはずなのに、俺達は助けられなかった。10年前、色々とあったけれど…一番悔やみ続けているよ、檜山の事を。檜山が死んで、なまえも辛かっただろう。しばらくは生きる気力もない、といった生活をしていたから目も離せなかった。そんなときに、レン。お前がなまえの中に居る事が分かったんだ。アイツの最期の贈り物だ、となまえが喜んでいたのも、レンが生まれたときの感動も、鮮明に思い出せる。

「父さんの、最期の…」

…俺が知っている檜山の話はこれで終わりだ。レンが知りたかった話だったか、自信はないが…これだけは言わせてくれないか。

檜山の事を憎むな、とは言わない。けれど、レン…お前が檜山と、なまえに愛されて生まれてきたんだと、お前は檜山となまえの子供だと言うことを忘れないでくれ。

「拓也さん…」

そうだ、知っているか?レンの父親のフルネーム。『檜山蓮』と言うんだ。…お前と同じ名前だよ。少しでも父親とつながりを持たせたいからと、なまえがレンと名付けたんだ。いい名前だと、俺は思うぞ。なまえの愛情が一番こもった名前だ、レンという名前は。

「オレ、母さんに…ひどいこと、言った…嫌いだって、大っ嫌いだって…そんなこと思ってないのに」

明日、ちゃんとなまえに謝れば大丈夫だ。レンとなまえは親子なんだから、これくらいで関係が崩れたりしないさ。ほら、だから泣くなレン。
もうこんな時間か、少し話しすぎたな、そろそろ寝ようか。レンも寝て、少し頭をスッキリさせた方がいいと思うぞ。ん?なんだレン。最後に質問?いいぞ言ってみろ。

「拓也さんにとって、父さんってどんな存在?」



そうだな、檜山は今でも一番の親友だよ。アイツと知り合えて、共に歩めて、本当によかった。それだけは自信を持って言えるさ。

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見ている写真はゲームクリア時のスチル(って表記でいいのか?)
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