社長室で仕事を片づけているとコール音が鳴った。呼び出しに出てみるとその相手は結城だった。何か開発部で問題でも発生したのだろうか。どうした?と声をかけると少し困ったような結城の声が聞こえた。

『あの、今エントランスにレンくんが来てるんですよ』

「レンが?」

『えぇ…なんだか落ち込んでるみたいなんですけど』

どうします?と言われ、考え込む。既に日も落ちかけてきたこの時間にここにレンがいるというのも何か変だ。なまえと何かあったのか。とりあえずほっとけないことには違いない。…霧野さんには少し悪いがなんとか予定を組みなおしてもらおう。結城に俺が行くまでそこで待っててくれと頼み、俺は社長室を出た。エントランスまで行くエレベーターの時間がここまで長く感じたのは初めてだ。
エントランスへ到着し辺りを見回す。結城とレンはすぐに見つかった。自販機近くのソファーで二人は座っていた。レンは俯いていてその表情は見えなかった。結城が俺に気がついたのか社長、と声をかけてくる。結城のその言葉にレンが顔を上げた。今にも泣きだしそうな顔をしている。俺は出来る限り笑顔を浮かべて優しく話しかけることにした。

「どうしたんだレン?いきなり来るなんて驚いたじゃないか」

「………」

「なまえは、一緒じゃないのか?」

レンはふるふる、と首を振るものの言葉を発しようとはしない。…ここじゃ、話したくないのだろうか。どうしたものか、と少し考える。とりあえず結城には礼を言い、開発部へと戻ってもらった。いつまでも結城に付き合わせるのも何だしな。結城は後でちゃんと話聞かせてくださいね、と言ってから戻っていく。結城も心配性だな全く。
ここじゃゆっくり話も出来ないか、と俺はレンを連れてエレベーターに乗る。社長室…は流石に霧野さんに怒られそうだな。この時間なら応接間も開いているはずだ、とレンを連れてそこに向かう。応接間についてレンを椅子に座らせて、自分も隣へ座る。どうやって話しかけようか、と思っていたところにレンが口を開いた。

「…母さんと、喧嘩したんだ…」

「なまえと?珍しいなそれは」

「学校で、父さんが…レックスが…人殺しだって聞いて…母さんに本当の事聞こうとして…」

ぽつぽつと、途切れ途切れだけれど何が有ったかをレンは話してくれた。その話を聞いて納得がいった。なまえが檜山のことをレンに話しているとは俺も思っていなかった。もし俺がなまえの立場だとしても同じことをしていただろうから。けれど、レンの言い分もわかる。どんなことでも、些細な事でもいいから父親の、檜山のことを母親から聞きたかった。そういうことなんだろう。たとえそれが悪い話だとしても、家族から一番に聞きたかったのだろう。

「家…飛びだしたのはいいけど、どこにも行く場所なんかなくて…拓也さんに、会いたく、なって…」

俺はそっとレンの頭を撫でた。その行為がレンの涙腺を刺激したのか、今まで我慢していたものがあふれだしたのか。レンはぼろぼろと泣き始めた。きっと自分の中で情報や気持ちを整理しきれていないんだろう。そんな時に、俺を頼ってくれたのが嬉しかった。俺のところに来てくれて、不謹慎ながら喜んでしまった。俺はアイツの変わりにレンの中で父親のような役割を果たせているのではないかと。

「なぁ、レン。本当に知りたいか?父親の事…檜山の事を」

綺麗な話ではないぞ?と付け加えて俺はレンに質問を投げかけた。少し瞳を揺らしたけれど、真っ直ぐに俺を見て首を縦に振った。何も知らないよりは、少しでも知ってるほうがいいと言いきるレン。…本当に、強い子だよレンは。

「じゃあ、帰るか」

「え?帰るって…?オレ家には帰りたくない!」

「誰がレンの家だって言った?俺の家だよ」

早とちりだな、と笑うと「何だよ拓也さんの馬鹿!」と怒られてしまった。そういうところはまだまだ子供で、可愛いものだ。
まだなまえと顔を会わせたくないだろうし、今日は俺の家に泊めるか。なまえにもそう連絡すれば大丈夫だろう。きっと今頃心配でたまらないだろうから。二人で会社を出て、帰路につく。そういえば俺の家にレンを入れるのは初めてだな。いつも俺が向かうばかりだったから。そう思っていたのは俺だけではなかったようで、レンも拓也さんの家行くの初めてだ!と少し元気が出たみたいだ。
軽く夕飯を済ましてから、帰宅する。約束通り、アイツの話をしなければ、と思うけれど一体何から話したものか…。悩むけれど、これ以上隠しごとをしてはいけないのは分かる。今まで俺達がずっとレンに隠していた事でレンを傷つけてしまったのだから。



長くなるかもしれないが…少し、昔話をしようか。俺が知る限りの檜山の話を。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -